哀色
3
成松は、思いっきり息を吸い込んで、一気に言い放った。
『俺は、お前が、す、きだ、から!えー、あのっ、付き合ってくらさ、ぁー、ください!』
「ぶっ」
不覚にも吹き出してしまった。
だっておもしれぇんだもん。
普通噛むか?しかもカリスマが。
あー、もう笑い止まんねぇ。
皆さんからの視線が余計痛い。
でも止まんないもんは止まんない。
成松さんは顔真っ赤にして、しまったーって表情してる。
『さぁ、お返事のほうは…?』
司会の人がマイクをこっちに向けてくる。
『あ、ちょ…くっ、今だめ、むりっ、ふはっ』
『だ、だめ…』
成松さんはガーンて感じ。だめって、そっちのだめじゃねぇし。
なんとか無理矢理笑いを抑えこむ。
いつまでも笑ってたんじゃ成松さんがかわいそすぎる。
『いや、あんま気にしないで。成松さんイメージ違ったわ』
『え、あ、それはどうも』
一体何に対してのどうもだよー。
おもしれぇなぁ。
成松はおろおろと口を開いた。
うん、もう成松カリスマとかじゃねぇわ。
『返事は、…』
『あー』
どうしよう。いいのかな、付き合っちゃって。よくわかんねぇや。
とりあえず理由聞いとくかな。
『俺と付き合いたい理由を10字以内で述べよ』
『10字!?や、ちょっと難し…えー、』
そんな律儀に10字以内で答えようとせんでもいいのに。
『あ、うそうそ。普通に教えて』
『付き合いたい理由…好きだから、だけど…』
…いや、きっちり10字以内やんけ。
『好きってどこが?』
『最初は顔が好みで一目惚れして、でも、顔良くても全然気取ってねぇとことか、わかって…あと、意外に不遜な態度がいいな、とか…』
『…え、なんか…はっず』
うわぁ、聞かなきゃよかった。
全新入生に聞かれちまったぜ、成松くんのぐだぐだ告白。
『あ、悪ぃ、言い方悪かったかも…ぇと、悪い意味じゃなくて…』
待て待て、どういう風に捉えたら今のが悪く聞こえるんだ。
そして、ショボンってした成松がやけに可愛く感じるのは俺だけか?
よーし、もう決めた。
『成松』
『はい』
『俺でよければ、付き合います?』
『…………は、』
『お?』
成松はワナワナと口を震わせたあと、ガバーっとハグしてきた。
『やっぱ好きだー!』
『おわ、ありがとー!』
さっきまで悲鳴みたいな声だったけど、今はちょっと祝福が混じってるかなぁ、って感じ。
うん、これも成松のおもしろぐだぐだトークのおかげだね。
『それで、あの、ルームメートになってくれると嬉しい…』
『もちOK』
『上城ぉぉぉお!』
『成松ぅぅぅう!』
もっかいハ〜グ。
なにこいつ超楽しい。
『成松くん、上城くん、おめでとうございます!では、お二人はステージ下に降りてくださって大丈夫です。次は桜井くんの番です』
桜井くんにマイクを渡した成松が、俺の手を引いてステージから下りる。
「上城、この後誰かと一緒にいる約束してるか?」
さっきさりげなく志乃探したら、もうすでに彼氏さんといた。
だから、俺は邪魔者だろ。
「してない」
「じゃあ、俺と、一緒にいて、くれねぇ?」
「承知しました」
「またそれか」
この人と見る景色は、どんな色をしているのだろう
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