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哀色
ありがとう
ふっと意識が浮上する。

この前意識が飛んでから、どのくらい経った?
俺は、どのくらいの間、目を覚まさなかった?

次意識が飛んだら、今度目が覚めるのは、いつ?





それとも、もうこれが、最後?





「…はは」

あほくさ。

考えて何になるっつーの。




どーだっていいじゃん、もう。




カチャリとドアが開く音がする。
あ、空だ。

「優!起きたの!?」

嬉しそうに近づいてくる自分の兄に、落ちてた気分がちょっと上がる。

「ずっと目ぇ覚まさなかったからさ、心配してた…。よかったよ、ほんと」

よかったんだ、空にとっては。


でもね、俺はあんま、良くなかった。



怖い。

怖いんだよ。

"次"を考えるのが。



目を覚ます度に襲ってくる、どうしようもない恐怖が、嫌で嫌で堪らないんだ。


いっそのこと、何も知らずに、何も考えずに死ねたらいいのに、なんて。



まぁ、口が裂けても言えないけど。
まだ、こうやって俺を心配してくれる人がいる限り、言っちゃいけない。

この命は俺だけのものじゃないから。

勝手に、捨てていい命じゃ、ないから。


このことが俺の唯一の支えであり、
同時に、抱えきれない重荷でもあるんだ。




すごく、息苦しいや。




…やめよう、こんなこと考えるの。

うん、空と話そ。

俺、ずっと目ぇ覚まさなかったって言ったな。

「ずっとって、どのくらい…?」
思った以上の掠れた声にびっくりした。

空は気にする様子なく、俺の質問への答えを考えてくれる。

「んー、成松くんが来てからだから…4、5日くらいかなぁ」



待って、今、何て言った?



今度は声が掠れないように、数回咳払いをしてから声を出す。
「成松、って…?」

「ん?成松龍聖くん。同室だったんだろ?」


龍聖の名前が出た瞬間に、心臓がドクンと鳴った。


「龍聖、来たの…?」

「うん、ずっと付きっきりだったよ。あ、今は文化祭の手伝いに行っていないけど。でも、たぶん夜には戻ってきてくれるんじゃない?」


付きっきり?



ずっと、俺のとこにいてくれたってこと?




「そ、らっ…」

「えっ?優、何泣いてんの?」

「ぅ、俺、絶対っ…龍聖に、愛想つかされ、てる、と思っててっ…」

目から溢れる涙を、手で拭う。

それと同時に溢れてきたのは、言葉じゃ伝えられないほどの、喜びとか安堵とか。

「大丈夫、大丈夫。成松くんは、ちゃんとお前のこと好きだよ。絶対、すごく大切に思ってるから」

空が頭を抱き込んできた。


またボロボロと涙が溢れてくる。

正直言うと、めちゃくちゃ嬉しい。


もっと早く目ぇ覚めれば、もっと早く龍聖と話せたのかな。

それ考えるとちょっと残念だ。

でも、次に目を覚ますのが、かなり楽しみ。
ついさっきまでは、怖くて怖くてしょうがなかったのに。

俺の命はあと少ししかないかもしれないけど、その中のできるだけ長い時間、龍聖や空と過ごしたい。



なんて思うのは、傲慢だろうか。

だけど、その傲慢な願いが叶うなら、俺はもう何も言うことない。



「龍聖、なんか、言ってた…?」

「うん。いろいろ言ってたなぁ。たくさん伝えたいことあるってさ」

聞きたい、早く聞きたい。

何を言ってくれるんだろう。

「そんでね、しりとりしたいって言ってた」
「ふはっ、何そのチョイスっ」

しりとりとかしてどーすんのさ。
あいかわらず面白い頭してんなぁ。

「優、」
空は俺の名前を呼んだかと思うと、頭を離して俺の顔を覗きこんできた。

「ん…?」

空はびっくりしたような顔をしてから、すごく嬉しそうに目を細めて、優しく笑った。

「優が笑ったの、久々に見たかも」

そういえば、いつぶりだろう、心から笑えたの。

なんか嬉しくて、また自然に笑みがこぼれた。


「成松くん、早く帰ってくるといいね」

「うん、早く会いたい…」




だけど、もし会えなくても悔いはない。


その話聞けただけで充分幸せだから。




よかった。

今、目を覚ませてよかった。



「空、ありがと」

「ん?何が?」

「いろいろ」

「…うん」









ありがとう、龍聖。










ありがとう。



















最後にこの色を胸に刻んで



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あきゅろす。
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