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哀色
今更
久しぶりに開けた玄関に、一枚の紙を見つける。

玄関には靴が一足もなく、もしかしたら優は出掛けてる、のか?

屈んで紙を拾う。

そこには、綺麗な字で、こう書かれていた。




『成松龍聖さんへ

優の兄の上城空と申します。優が大変お世話になりました。
少し事情があって、優を休学させることにしました。
ですので、寮とは契約を切らせていただきました。
優の私物は片付けておきましたので、空いたスペースなどは成松さんがどうぞご使用なさってください。
短い間ではありましたが、優をありがとうございました。

もし何かありましたら、下記の電話番号にご連絡ください。家の使用人が対応させていただきます。
××××-××-××××

上城空』






全身が、スッと冷えていくのがわかった。

なんだ、休学って。
さっき電話きたばっかなのに、なんで。

心臓がバクバクとうるさい。

フラリと玄関に座り込み、携帯を取り出す。

震える指で番号を入力し耳に当てれば、数回のコールの後、カチャリと受話器を取る音がした。

『もしもし、上城でございます』
聞こえてきたのは、年老いた、それでいてはっきりとした声だった。
「もしもし、成松と申します…あの、上城優くんと同室だった者ですけど…」

『あぁ、そうでしたか。坊っちゃんが大変お世話になりました』
「いえ…こちらこそ…それで、優のこと、なんですが…休学って、何が、あったんですか…?」

『坊っちゃん、少し重い病気にかかってしまったようでして…しばらく療養なさるものですから、休学という形に致しました』
「病、気…重いって、どのくらい…」
『……そうですねぇ…』


ああ、もう嫌な予感しかしない。


『実は、医師の方からは、もう長くないと言われたそうです』


「っ……」



心臓が、痛い。
いっそこのまま、止まってくれればいいのに。


『助かる確率は5%前後だそうで、今はその5%にかけて、治療をしていただいております』

5%なんて、100人に95人は死ぬってことじゃねぇか。
10人だったら、1人も、助からない。


「…優は、どこにいますか…」
『実家の方でお休みになっておられます』
「行っても、大丈夫ですか…」
『…少々お待ちくださいませ。只今確認を取らせていただきます』

暢気なメロディが流れる。

嫌だ、やめてくれ。

今、こんな気分じゃねぇんだよ。

『お待たせ致しました。特に問題はないそうです。もしよろしかったらお車お出ししますが、いかがなさいますか?』
「ありがとうございます、お願いします…」
『ご希望のお時間ございましたら、その通りに伺わせていただきます』
「今すぐ、来れますか…?」
『外出許可など、お取りになる時間は大丈夫でしょうか』
「はい、すぐ取りますから、大丈夫です…」
『畏まりました。すぐ伺わせていただきます』




会いたい。


会いたいよ、優。




会って、また、前みたいに一緒に笑おう。













掴んだのは色のない景色



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