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哀色
ようやく
結局あの日、優の様子を見には行かなかった。
部屋の前までは行ったけど、そこで散々悩んで、やめた。
だって、どの面下げてって感じじゃねぇか。

それからしばらく経って、俺はまた生徒会室でペンを走らせていた。
最近じゃ授業には滅多に顔を出さない。
忙しいし、それに優に会う可能性も十分あるから。
クラス、一緒だしな。

そういえば、俺がいない間は誰と一緒にいるんだろう。
休み時間とか昼とかは二人でいたもんな。
もしかして一人でいたりするのか。

知らないうちに優のことばかり考えていると、携帯が着信を知らせた。

取り出してみれば、そこには優の、名前。

え、待て、何で?
別れようとか、そういうんじゃ、ねぇよな…?

やけに緊張しながら、通話ボタンを押した。

「もしもし…」
『龍聖…』

直接声を聞くのなんて、ほぼ一ヶ月ぶりだ。
なんでか、泣きそうになった。

「なんだ?」

『龍聖、…好きだよ…好き……大好き…なぁ、俺、』
優は、本当に聞き逃してしまうくらい小さな声で、会いたい、と、そう言った。

なんか、こう、ぶわって…いろんな感情が押し寄せてきた。
嬉しさのような、罪悪感のような、いろんな何か。

もっと、しっかり聞きたい。もっとはっきりした音で、会いたいっていうその言葉が欲しい。

「なに、もうちょい、でかい声で言って」

でも、聞き方が悪かったらしい。

『…ごめん…なんでもねぇや……』

「なんだよ、はっきり言えって、」
余裕なくて、言い方きつくなった。
余計だめだ、こんなの。

『ごめん……マジで、好きだよ…』

「それはわかったって、」

会いたいんじゃ、ないのかよ。好きなんて、それだけ言って、切るつもりか?


なぁ、言ってくれ、もう一回。




そしたら俺は、




『悪ぃ、迷惑じゃんね…聞いてくれて、あんがと…仕事頑張って』

そこで、プツリと通話は切れた。

ツーツーという無機質な音が、やけに虚しかった。



違う、違うんだよ…。
迷惑なんかじゃ、なくて…。
ちょっと焦ったら、言い方キツくなっただけ。

何で、こんな上手くいかないんだろう。



呆然と、携帯の画面を見ていると、会長が机から身を乗り出してきた。

「成松、今の電話、誰からだ」

「優、からです」

「っざけてんのかてめぇ!!」

会長はそう叫ぶと、立ち上がってずかずかとこちらに近寄ってくる。

「お前、あの対応は何だ」

胸ぐらを掴まれ、唸るように言われた。

「今すぐ、謝ってこい。そんで、もうはっきりさせろ。これ以上、優に辛い思いさせんなら、そん時は俺がもらう」
「っ……わかりました…」

会長は乱暴に俺を突き放すと、さっさと失せろと言った。
相当怒らせたんだろう。

てか、もらうって…どういう意味だ…。

足早に生徒会室を出て、自分の部屋に向かう。

それにしても、優はなんであんな電話をしてきた?
もしかしたら、また前みたいな関係に戻れるかもしれない。


会いたいって言われて、ようやくわかった。

俺も、会いたいんだと。



ずっと会いたかった。



なぁ、優。

ありがとう。

お前が言ってくれたから、俺はやっとお前に会いに行ける。












必死で手を伸ばした



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あきゅろす。
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