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逆転のち逆転
【S】音沙汰なし(3)
グランドの脇に設置されている水道で、俊希さんがバシャバシャと水を顔にかける。

顔を上げた俊希さんにタオルを手渡した。

それを受け取った俊希さんは、顔をゴシゴシ拭いて、ギロッと俺を睨み付ける。



「……秋一、お前わざとだろ」



「…………」

本気で心臓が飛び出すかと思った。

まぁ確かに狙いに行き過ぎた自覚はある。
俺と俊希さんの不仲説が囁かれても仕方ないかなと思うぐらいには、思いっきり顔にシュートを決めにいった。

けれど、まさか、俊希さんにバレるとは思わなかった。
だって、俊希さんバカなのに。

そして、次に俊希さんの口から飛び出たのは、更に俺が予想だにしなかった一言だった。


「……まぁ、俺が悪かったと思ってる」


「……――悪かった?」


「いきなり、襲って悪かったって……もう、あのことは忘れてくれ」



「え、嫌です」



「………は?」

悪いわけがない。
たとえそれが失恋でヤケになっていたからだとしても。

「確かに俺が食われたのは予定外でしたけど」

「………なに、言ってんの?」



「俺、俊希さんが好きです」



「………はぁっ!?嘘だろ!?」

「嘘じゃない」

俊希さんは本当にびっくりしているらしい。
ワナワナと口を震わせている。

なんだ、これは気づかれてなかったのか。

「……お、まえ…男にそんなこと言って引かれるとか思わなかったの?」

「俺を抱いたあなたが言いますか」
「っ、そりゃ、まぁ…」

いちいちバカなのがもう、可愛いなあ。

「冗談です。俺、俊希さんがゲイだって知ってたんで」

「えぇ!?」

そう、俊希さんは生粋のゲイ。
でもそれを誤魔化すために敢えて女好きのイメージを固定化させているようだ。
ちなみに、失恋した時に告白したのは男である。

「他にも、俊希さんのこと、知ってますよ。2年6組29番、血液型はO型、誕生日は5月8日で家族構成は両親と弟が一人――」

「――怖い怖い怖い!俺お前に家族構成教えてねーぞ!」

「とあるツテから情報を手に入れました」
「もうむしろそのことにドン引いてるわ…」
「これも俊希さんへの愛ゆえです。受け取ってください」
「押し付けがましいなオイ」

「好きです、俊希さん」

「………んなこと言われても、」



「秋一、早く戻って来いよー!」



いいところで、先輩の呼ぶ声がした。

この話はまた今度、だな。

「俊希さん、これ氷です。顔、冷やしといてくださいね」

俊希さんに氷の入った袋を渡すと、ポカンとしたまま受け取った。
その顔、写真撮っていいですか。

ボール当ててしまってすいませんでしたと、最後にもう一回謝ってから、コートの中に走って戻った。












あともうひと押しだと思うんだけど



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あきゅろす。
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