逆転のち逆転 【S】絶対おかしい 例えば、目の前に失恋して泣きじゃくっている自分の意中の人がいたとしよう。 しかも、誰もいない密室に。 これを襲わない男がいるだろうか。 もしいるならば、俺は感嘆と侮蔑の意をこめて盛大な拍手を送る。 そして、俺は偶然にも、非常に運良くその状況を体験することになった。 もう、これは、食うしかないだろ。 夢のような光景を目の当たりにした俺は、狼の心を隠しながら、紳士よろしくそっとその人を抱き締め、優しく慰めの言葉を耳元で囁いた。 そうしたら、食われた。 なんてこった。 俺、広瀬秋一の意中の人というのは、サッカー部の先輩である宮間俊希さんである。 一個上の2年生である俊希さんは、俺のストライクゾーンど真ん中な顔と性格をしている。 俺がサッカー部に入ったのは、ひとえに俊希さん目当てだった。 確かに小学校からサッカーをやってはいたが、中学のスパルタ顧問のせいでむしろサッカーに憎しみすら抱くようになっていた俺は、高校ではサッカー部に入るつもりは全くなかった。 しかし、部活勧誘に俺のクラスに来た俊希さんに心臓をぶち抜かれ、即入部を決定。 後悔は微塵もない。 俊希さんは、それはもうめちゃくちゃに可愛い。 背は170cmを越えているが、色は白いし顔も可愛いし、何よりその性格が俺は好きだった。 俊希さんは言動がとにかくチャラい。 クラスの女子全員に愛を囁いたという伝説は有名である。 でも、実は恋愛にはとことん真面目な人だということを、俺は知っている。 本当に好きな人には真剣に向き合う人だ。 だから、失恋して泣きじゃくっていたんだ。 なにこの可愛さ。 俺も俊希さんからそんなふうに想ってもらいたい。 そして愛を確かめ合って抱きたい。 でも、顔は甘いが力は強い。 俺が抱き締め慰めている間に、俊希さんは俺を押し倒し、そのままアーッな展開になってしまったわけだ。 いや待てどういうわけだ。 だって、俺はどっからどう見たって抱かれる側じゃない。 俺と俊希さんが並んで、道行く人にどっちが抱かれる側ですかという質問をしたら、100人中95人は確実に俊希さんを指すだろう。 ちなみに残り5人はこの質問にドン引きして逃げていく人たちだ。 なのに、なんで俺が食われたんだ。 いや、これはきっと何かの間違いだろう。 俊希さんも次は自ら俺に身を委ねてくれるに違いない。 よし、次は俊希さんを散々甘やかして、 おいしくいただくことにしようじゃないか。 抱くのは絶対俺のはず [*前へ][次へ♯] [戻る] |