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逆転のち逆転
【T】もしかして夢?(3)
グランドの脇に設置されている水道で、バシャバシャと水を顔にかける。

顔を上げると秋一が間を空けずにタオルを差し出してきた。

それを受け取って顔面の水を拭き取ってから、秋一を睨み付ける。



「……秋一、お前わざとだろ」



「…………」

秋一にしてはめずらしく驚いたのか、目を見開いて固まった。

わかるよ、そんくらい。
絶対あんなん許せねーよな。

「……まぁ、俺が悪かったと思ってる」

ボール顔面に蹴りつけられたって文句は言えない。

「……――悪かった?」

怪訝そうに言う秋一に、内心首を傾げる。
謝ることっつったらあれしかねーだろ。

それとも悪かったの一言で終わらせる気かよコイツみたいな感じなのか?

秋一の考えてることよくわかんねー。
他人が考えてることの裏側まで探るのは苦手。


「いきなり、襲って、ほんと 悪かったって……もう、あのことは忘れてくれ」

頼むからなかったことにしてほしい。
これからもお前とは先輩後輩って関係で仲良くしてきたい。
毎回顔面にボールぶつけられてたら俺の鼻が変形する。


「え、嫌です」



「………は?」

嫌なの?
もう俺とは仲良くなんてしたくない?
はぁそりゃそうだ。
わかってた。これが普通。

もし秋一が女だったとしてもあんな乱暴なやり方受け入れられるはずがないのに、男同士だったら尚更。

俺は多くを望みすぎ。

「確かに俺が食われたのは予定外でしたけど」

そうそう、秋一にとっては予定外………ん?
"俺が"食われたのは…ってことは、…いやいや待て、変な期待すんなし自分。

「………なに、言ってんの?」



「俺、俊希さんが好きです」



「………はぁっ!?嘘だろ!?」

「嘘じゃない」

え、え、待って、好き?好き!?
俺が秋一を好きなんじゃなくて、秋一が、俺を!?

うわああええああ…………マジか!!

いやでも、ってことは秋一はゲイなのか?
俺がずっとずっと隠してきたコンプレックスを、こいつはいとも簡単に暴露してみせた。

「……お、まえ…男にそんなこと言って引かれるとか思わなかったの?」

「俺を抱いたあなたが言いますか」
「っ、そりゃ、まぁ…」

あれは、その場の勢いってやつで…今とか精神状態がそんな荒れ狂ってなければあんなこと絶対ぇしなかったし…。

「冗談です。俺、俊希さんがゲイだって知ってたんで」

「えぇ!?」

知ってたの!!?
知ってて、で、引かれないって分かった上で告白!!?
ずるくねそれ!!!!

俺は秋一がゲイなのかノーマルなのか何にもわかってなくてすげーしんどくて悩んでて、なのにこいつは全て分かっててのほほんっと好きですとかかましてきやがった。

ずりー、マジでずりー。

「他にも、俊希さんのこと、知ってますよ。2年6組29番、血液型はO型、誕生日は5月8日で家族構成は両親と弟が一人――」

「――怖い怖い怖い!俺お前に家族構成教えてねーぞ!」

なんだコイツ!
思ってたより危ないやつかもしれない…。

「とあるツテから情報を手に入れました」
「もうむしろそのことにドン引いてるわ…」
「これも俊希さんへの愛ゆえです。受け取ってください」
「押し付けがましいなオイ」

「好きです、俊希さん」

どうすればいいんだ、だって、俺、秋一と付き合う気、ねーし。
俺と付き合うことで秋一に迷惑をかけたくない。
もし秋一がゲイって思われてみんなに引かれたらもう俺にはどうしようもない。

「………んなこと言われても、」



「秋一、早く戻って来いよー!」



部員の声がかかった。

秋一はチラリとそっちに視線をやってからまた俺の方を向いた。

「俊希さん、これ氷です。顔、冷やしといてくださいね」

秋一は氷の入ったビニール袋を俺に手渡して、ボール当ててしまってすいませんでしたと、最後にもう一回謝ってから、コートの中に走って戻っていった。

その背中を見ながら氷を顔を隠すように押し当てた。

顔が熱くなるのがわかる。

だって、俺、秋一に告白された。
ずっと好きだった秋一に。
超嬉しいどうしよう。








夢にも見なかった展開


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