短編(戦国BASARA) 亡びを嗤う(男主/豊臣軍) くく、ともふふ、ともつかぬ声を漏らしながら、目の前の男はワラウ。 その手には黒の碁石。 ぱちりと盤面に打ちながら、男は詠うように切り出した。 「酢漿草は摘まれた」 報告のためだけに紡がれた言の葉に、われは手中の白石を打つ事で返した。 「高みの見物とは、なかなかどうして悪くない」 「…面白いモノでも見つけやったか?」 笑みを深くする友に、われは半ば呆れながら成果を尋ねた。 「ああ、見つけたね」 傑作な戦だった、と口元を歪めて男は仔細に語った。 哀れよな、と他人事に思った。 西海の鬼が、ではない。 盟約を結んだ同胞に対してだ。 此奴がワラウのは"滅び"の香を、その鋭敏な鼻で嗅ぎ取った時のみ。 外れたことの無いソレは、もはや先読みめいて。 「星の御仁は、実におれを楽しませてくれそうだ」 ああ、やはり。 謀将の智略も、此奴の前では塵と化しそうだ。 ぱちり、ぱちり。 「…そういえば、アレはどうした」 しばらく碁石を打つ音が響いた後、ふと此奴は口を開いた。 そこには先の笑みも声も無く、ただ能面のような顔――いや、面の方が表情豊かであったか――があった。 が、それに何かしら思うわれでもない。 「三成ならば、自室であろ」 何故ならば、こちらが此奴の"素"だからだ。 「寝ているか」 「いや、」 「食べているか」 「一応昨日握り飯を食したな」 そう応えれば、眉一つ動かしていない筈だのに、不機嫌の感が伝わりきた。 「…これを打ち終えたら、向かう」 さよか、ヌシも世話焼きよな、と言えば怪訝な雰囲気を返されたが。 「治部少、入るぞ」 声をかければ、部屋の主はやや驚いたように振り返った。 「男主人公、戻っていたのか」 「今し方な」 それより、と続ける。 「寝たか、食ったか」 「どちらも要らん」 にべもなく突き返され、思わず口の端が引きつりそうになった。 いや、ならないが。 「寝ろ。そして食え」 「だから要らんと…むぐっ!?」 「安芸名物の紅葉饅頭だ」 育ちがいいのか、おれに無理やり押し込まれた饅頭を咀嚼し終わるまで文句が出る事は無かった。 「食ってすぐ寝ると、胃の腑に悪いからな」 寝るのはもう少し後か、と続ける頃には饅頭の大部分が喉元を通り過ぎたようだ。 抑圧されていた文句がまた顔を出した。 「――男主人公、」 「体は資本と、何度言わせる」 「だが、」 「だがもへったくれもあるか」 文句なぞ認めない、と言い切れば背後から引きつるような笑いが聞こえた。 「ヒッヒッ…やれ三成、そう男主人公に突っかかってやるな」 男主人公は出先からもヌシの体を気遣うておったのよ、と爆弾を投下する刑部。 治部少から視線を向けられる。 きっと刑部を睨んでしまったおれは悪くない。 「誠か」 「…嘘を言ってどうする」 確かに、安芸から何度か刑部宛てに文を書いたが。 おれが居ないとすぐに寝食抜きたがる奴がいるのだから、仕方あるまい。 「その…すまん」 「何、構わん」 むしろすぐに謝罪が来た事に驚いた。 少しは周りに心配かけていると自覚したのか、はてさて。 「三成、男主人公、」 茶でも飲むか、と刑部が誘えば。 治部少は頷いて、おれは座布団を引っ張り出して。 ああ、平和だ。 つい先日まで、血と磯の臭いを嗅いでいたのが嘘のよう。 本当に、おれがいつまでも、笑わずに居られたら良いというのに 〜あとがき〜 久しぶりにBASARAにフィーバーした結果がこれだよ! もう刑部の口調とか、分からんですしおすし。 ちなみに 酢漿草=元親(家紋の七つ酢漿草) 星の御仁=元就(家紋の一文字三ツ星&日輪) 治部少=三成(官位の治部少輔) です。 念の為。 続く…かも、しれない。 [*前へ][次へ#] [戻る] |