それはきっと遠くない将来 厨の方で物音がする 人の気配で目を覚ました物の怪は隣でまだ眠っている昌浩を起こさないようにそっと寝具を抜け出した 「おぉっ積もったなぁ。昨日の夜から冷えたからなぁ」 一晩降り続いた雪は膝の高さまでに積もって辺り一面をキラキラと白銀に彩っている 「あら、おはよう。もっくん」 向かった先の厨で屈んだ彰子に声を掛けられた 「おぅ。まだ日も昇らないうちからよく動くなぁ。一応客扱いなんだから寝てても良いんだぞ?」 「私がやりたいの。安倍のおうちの方は本当に親切にして下さるし、少しでも昌浩の役にたちたいの」 「ほぅ?昌浩…の…ね?」 にんまりと笑う物の怪の声は彰子には届かない 「え?ごめんなさい、もっくんなにか言った?」 「いんや、何でもない。それより…さっきから何してる?」 彰子の手には左右一つづつ 手の平程の大きさの石 「火桶に火を付けたいんだけど…駄目ね。手がかじかんでしまって上手くいかないの」 そう言われてみればさっきから喋る度に白い息が見えているし、白い指先は真っ赤になっている 神将は気温にあまり影響されないせいで失念していた 「…うぅん?…さて…。」 しばらく考えて、カツカツと火打ちを続ける彰子と火鉢を交互に数回見比べて やがて一つ頷いた 。 「…もぉちょっと強く打ち付けてみたらどうだ?」 「つよく…?」 一瞬両手を見つめ えいっ とばかりに打ち付けた チリッ という小さな音の後火種に微かな灯りが灯った。 「…っ点いた!……。」 やっと点いた小さな灯りに、ほっとした表情をしたが 少し複雑な顔をして物の怪を見下ろした。 「もっくん…今…」 「ん?なんだ?」 「うぅん?何でもない。でもありがとう、もっくん」 「さて、な?」 にんまりとして厨から出た そろそろ昌浩をお越しておいたほうがいいだろう 「やっぱり彰子には誤魔化せないなぁ…」 そこらへんの陰陽師ですら気づかれないくらいに力を加減したんだが。と一人心地に呟く 「おーい。昌浩ー?」 部屋を覗けば寝床で上半身を起こした寝ぼけ眼の昌浩と目があった 「…おはよう、もっくん…」 「おぅ。…?どうした?変な夢でも見たか?」 足元まで歩み寄って問えば返って意外な顔をされた 「夢は見てない。…けど、もっくん珍しいね」 「ん?何の事だ?」 さっぱり分からない、 という顔で返事をすれば 気のせいかなぁ。 と小首を傾げる昌浩。 これが確信を持てるくらいに成長するのはいつになるかと物の怪は密かに苦笑する ●終 22'2/5 [戻る] |