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桃の節句と藤の花*弐

「桃の節句か?」
部屋を出るとすぐ声をかけられた
「何じゃ六合いたのか」

妻戸に背を預けていた六合に形だけ驚いて見せ、庭に向き直ると拍手を打った。

「勾陣、白虎」

「用意は出来たのか?」

一呼吸分の間ののちに庭先に呼応した二人の神将が顕現した。

「うむ、共を頼む。六合は昌浩を頼んだぞ?今日はあやつも忙しくなるからの」

そう言う主の笑みの理由は分からないが、ただ頷いて隠行した。



一方。昌浩の部屋。

簾子を渡る慌しい気配で目を覚ました。

「う…ん? じい様はもう出かけたのか」

昨夜も夜警に出ていたのでできればもう半刻でも寝ていたいところだが、そろそろ彰子も起こしに来るだろうと 眠い目を擦り、体を起こした。

「ぁーあ。稀代の陰陽師も苦労が多いなぁ」
「今日は宮中にも顔を出さなければならないだろうからその前に幾つか片付けるつもりなんだろう。全く、年を考えろというのに」

ぐちぐち口の中で文句を言っている物の怪に苦笑しつつ声をかけた

「おはよ、もっくん。もうおきていたんだ?」

まあな、と返事をして不意に天井を見上げると ひらひらと舞い落ちてくるものがある。

「あ…。」
「げっ…。じい様の式文っ?!」

頭を抱える昌浩の前で ぼんっ と音を立てて蝶の形から、一通の文に変わった。
苦渋の表情でそれを呼んでいた昌浩の表情が見る見る青くなる。

「昌浩?どうした?晴明はなんて…「っだぁあああっ!
あんの 狸じじいーっ!!なんて事を!!?」

一体何事かと、涙目で頭をかかえ、唸る昌浩が放り投げた文を拾って読んでみる。

 ”昌浩や、今日は休みだそうじゃな。
しかし丸一日ただ休んでいるだけでは立派な陰陽師には成れん。そこでお前、ちょっと行って節句の儀を執り行ってこい。
なぁに 心配はいらん。 先方にはもうお前が行くことで納得されておる。失礼がないようにちゃんとするように。 ばーい 晴明”



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