幼なじみ
「げ、シェリアだ…」
街に入るとアスベルが言った。
見ると行く手に赤毛の女の子。…怒ってるぞ、何したアスベル。
「アスベル!なんで私のこと置いてっちゃうのよ!」
…ああ、あれか。幼なじみの探検にいつも連れてってもらえない紅一点の図か。うん自業自得。頑張れアスベル。
怒らすと怖いのは知ってるらしく兄弟二人して逃げ腰だ。だったら怒らすな。連れてってあげればいいのに。
遠目でもわかったらしくて赤毛の子は「逃げるな!」と叫んだ。
「今行くからそこにいて!動いちゃだめよ!」
走り出した女の子はなぜか突然立ち止まった。胸に手を当てている。喘息?
「おい、大丈夫か?」
「…もしかしてこの子持病持ち?」
「うん…昔から体が弱くて…ちょっと走るだけでも疲れちゃうから、あんまり連れ回しちゃだめって言われてるんだ」
連れてかない理由はこれか。確かにこれじゃ裏山登るのも重労働だわ。
…ねぇそこで停止してるツインテールさん、なんでこっちに来ないんですか。
仕方なく手を引いていくと、アスベルが呆れて言った。
「お前、なんでこっちに来ないんだ?」
聞き方キツいぞアスベル。
「…動くなって聞こえた」
「お前律儀ね」
記憶喪失の人にうっかり指示与えてはいけませんってか。
「ねぇ、この子誰?」
シェリアから当然の疑問が出た。俺のことも目線が掠めてった。怪しくてすいません。
…で、上から下までじろじろ見た後でアスベルを睨んでるのはどういうわけだ?
「…シェリアって、兄さんのことが好きなんだよ」
「あっなーる。やきもちか」
「兄さんはぜんぜん気付いてないけどね」
「うん鈍そう。もしかしてヒューバートって俺の予想より苦労してる?」
ヒューバートは曖昧に笑って、アスベルに何か耳打ちした。
アスベルの持ってた花はシェリアという子にあげるために摘んだことになったらしい。うわヒューバート有能。影の功労者。拍手。
しかしその後でピンクの髪の子も花をあげたのはびっくりだった。うーん空気読めてないのはこの子も同じか。結果的に好印象だったからよしとするけど。
「ねぇ、あなたの名前は?どこから来たの?」
「それ、俺たちもさっき聞いたんだけど…」
「この子、記憶喪失みたいなんだ」
「ええっ!何よそれ、大変じゃない!」
シェリアは予想以上に重大に受け止めてくれて、自分の祖父に聞くよう言った。
「街の人の事だったらたいてい知ってるはずだから」
「シェリアのお祖父さんって何してる人?」
聞いたらシェリアが「誰この人」って顔をした。
「ああごめん、俺はゆきみちたくと。三人とは裏山で会ってさ。まぁまとめると文無しの迷子だから、街で路銀貯めようと思って二人に案内してもらったわけ」
アスベルが何か言いかけてヒューバートがそれを止めた。俺ちょっとヒューバート大好きになりそう…!気がきく!
「そうなんだ…なんだか大変なのね」
「ありがとー。で、お祖父さんって何してるの?」
「フレデリックならうちの執事だぜ」
…こいつらがいいとこの坊っちゃんだって忘れてた。
「街の人の相談に乗ったりしてるんだ」
「あーなるほど、ラントの人間ほぼ全員把握してるわけな」
それなら何か知ってるかもな、頷いて、俺もアスベルたちの家に行ってみることにした。
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