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オリジナルSS

 
係員はテキパキとお茶を淹れると、それを亜月の前に置くと、自分もその隣に腰掛けた。
その視線はまっすぐ亜月に向けられる。
あまりにしっかり見据えられて、亜月は少々気恥ずかしくなった。

「あっ、そういえば、お兄さんのお名前教えてください」

「え? ぁ、そうか。まだ名乗ってなかったね。僕は小路勝也(しょうじ かつや)っていうんだ」

「小路さんか」

「勝也でいいよ、亜月くん」

「え? なんで、僕の名前...」

まだ名乗っていないのに、と不思議そうに首を傾げれば、勝也にクスリと笑われてしまった。
バカにされたと思って頬を膨らませれば、頭をクシャクシャと勝也に撫でられる。

「ごめん、ごめん。バカにしたわけじゃないから。それに、僕が名前を知ってたのは、それだよ」

そう言って亜月の腰元を指差した。
勝也の指差す先には亜月の持っていたバッグ。
そこにはクマの形をしたキーホルダーが付けてあった。
裏には『中森亜月』とふりがな付きで書かれている。

「そういえば...お母さんが付けてくれたんだった」

「そっか。いいお母さんだね。あのさ、よかったら、僕と一緒にアトラクション廻らない?」

「え? いいんですか?」

「もちろん。僕、今日はこれであがりだからさ」

そう言った勝也の言葉に、亜月は嬉しそうに頷いた。





それから、亜月は勝也と二人、色々なアトラクションに乗って、気づけば閉園時間。
たった一日過ごしただけだったのに、いつの間にか勝也のことが気になって仕方なかった。

「そろそろ帰ろうか?」

「はい...」

「亜月、くん?...そうだ、観覧車でも乗ろうか」

「はいっ!」

勝也の言葉に、亜月は一気に笑顔になる。
まだ勝也と居られるということが何より嬉しかった。



「僕、観覧車って久しぶりです」

観覧車に乗った亜月は楽しそうに外を眺めている。
その横顔が子供の割に、勝也にはとても色っぽく見えた。

「亜月くん、ごめん」

「え?――!?」

突然の謝罪に意味がわからない亜月は不思議そうに首を傾げるが、唇に柔らかい感触がし、固まってしまう。
勝也にキスされているのだと、すぐに理解できた。

まだ小学三年の亜月にとってはファーストキス。
なのに、嫌な気持ちは全くなかった。

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あきゅろす。
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