オリジナルSS
1
俺──棗(なつめ)は今、ものすごーく混乱している。
原因はこいつ──幼なじみの聡(さとる)が言ったこんな言葉にあった。
「棗、好きなんだけど」
これは属に言う告白というやつだ。
だが、俺は自分の耳を疑ってしまった。
だって、聡は男なのだから。
もちろん、俺も男。
同性から告白をされて驚かない人間など、まず居ないだろう。
「あ、あの…えっと…」
兎に角返事をしなくては、と思っても動揺してしまって上手く言葉が出てこない。
「別に今すぐじゃなくていいから。ゆっくり考えて」
本当は返事を聞くのが怖いはずなのに、焦らなくていいと言ってくれた聡の優しさに、棗は彼に対する気持ちにしっかり向き合おうと思った。
「一週間…待って。今はまだ聡のこと…その…恋愛対象として好きなのか、はっきりした答えがみつからない。だから俺、一生懸命考えるから。一週間後の放課後、またこの教室でちゃんと返事する」
一週間は短すぎるかもしれない。
でも、ずるずると返事を引き延ばしていたら、きっと答えなんて浮かんでこない。
それに、何より…聡に申し訳なかった。
棗が返事をしない限り、聡はきっといろんな想いを抱えながら待っているだろう。
だから、聡の為にも──自分自身の為にも一週間で結論をだそう、と棗は誓った。
一週間なんていうのはあっという間だ。
棗は今、改めてそう思った。
聡から想いを告げられてから今日で一週間。
放課後はいよいよ告白の返事をしなくてはならない。
この一週間、棗は必死で考えた。
今まで聡と過ごした時間を思い返し、改めて聡への気持ちを確かめる。
言葉で言うのは簡単だが、実際にはとても難しいことだ。
好きとか嫌いとかよりも、隣に居て当たり前という気持ちの方が大きかった。
生まれてから十七年、いつも一緒に居た存在。
だけど、男同士だから恋愛対象としてなど考えたこともなかった。
それでも答えを必死探す。
自分は聡をどう想っているのか?
一生懸命考えて棗は答えを出した。
そして、今日の放課後、それを聡に打ち明ける。
「ふぅ〜…」
授業はあと十分もすれば終わりだ。
刻々と約束の時間が迫ってくる。
柄にもなく緊張してしまい、棗は心を落ち着かせようと大きく息を吐いた。
それを今日一日、何回繰り返しただろう?
「それでは今日の授業はここまで」
チャイムが鳴り、教師の声で授業が終了を迎えた。
とうとう放課後だ。
生徒達は皆、教科書を片付け、次々と帰宅していく。
あっという間に教室内の人数は減り、最後には棗と聡だけになった。
「棗」
いつも聞き慣れた声なのに、今は過敏な反応をみせてしまう。
「あのさ、この間の…返事なんだけど…」
「うん…。ちゃんと考えて…結論だしたよ」
この一週間、棗なりに考え抜いて出した答え。
言い様の出来ない緊張が棗を襲ってくる。
「その結論…聞かせてくれる、か?」
棗同様、聡も緊張していた。
長い長いこの一週間、不安ばかりが押し寄せてくるのだから。
震えながら訊いてくる聡に、棗は軽く深呼吸をし、ゆっくりと頷いた。
「俺…一週間、一生懸命考えたよ。聡のこと…好きだけど、それが恋愛としてなのか…友達としてなのか、よく分からなかった。ただ、いつも一緒に居るのが当たり前で…聡に好きって言われて、正直すげー驚いた。…でも、嫌じゃなかったよ」
そこまで言うと、棗は黙って俯いてしまった。
その肩はぷるぷると震えていて、聡は棗が再び話しだすのは黙って待つことにした。
「俺…」
それから数分が過ぎた頃、棗がようやく口を開いた。
まだ震える身体。
それを堪えるように掌をぎゅっと握り、床に向けていた顔を聡に向ける。
「俺…も、その……」
次の言葉が出てこない。
棗は頬を赤く染め、眼を泳がせる。
だが、少しの躊躇いのあと、決心したように眼を聡に向けた。
そして、目の前に居る見知った顔を見据える。
「俺も…聡が好きだ。…恋愛対象として」
たった一言の短い言葉。
だが、その一言を伝えるのにはとてつもない勇気がいった。
「棗……ほんとに?」
予想もしていなかった言葉に聡は眼を見開く。
まさかこんな言葉が聞けるなんて思ってもいなかった。
きっと気持ち悪がられて嫌われる。
そんな気持ちがあったせいで、棗の言葉に胸がドクドクと激しく脈打つのが分かった。
「嘘でこんなの言わねーよ」
「棗…ありがとう。俺、すげー嬉しい」
そう言った聡の顔は本当に幸せそうで、棗まで頬を綻ばせる。
この日から二人の関係は大きく変わった。
友達から恋人へ──。
END
【あとがき】
ここまで読んでくれてありがとうございました。
初めは男主夢だったんですが、オリジナルは男主夢を廃止したので、主人公の名前を棗にしました。
いかがでしたでしょうか?
☆adios amiga☆
執筆:2010/05/19
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