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オリジナルSS

「おっ、露店か〜」

学校の帰り、飛鳥大悟(あすか だいご)は寄り道をしたくなり、いつもとは全く違う道を歩いていた。
初めて見る景色に、新鮮な気持ちになる。

しばらく景色を堪能していると、小さな露店が大悟の眼に入った。

「アクセサリーか…」

小さな台の上に並べられた数個のアクセサリー。
ネックレスやブレスレット、ピアスや指輪など、キラキラと装飾されたものやシンプルなものがあった。

「……一つ、買っていこうかな」

「いらっしゃい。じっくり見ていきな」

どれにしようかな、とアクセサリーに眼を向けていると、店員さんが気前の良さそうな笑顔で声を掛けてくれた。
それに吊られて大悟も笑顔になる。

「じゃあ…これください!」

大悟が選んだのは綺麗なシルバーの指輪。
至ってシンプルなものだったが、そこがすごく気に入ったのだ。

「はい、五百円な」

ポケットから財布を取り出し、五百円を店員さんに手渡した。

「また来てください」

「はいっ」

笑顔の店員さんに別れを告げ、足を進める。





しばらくすると見慣れたマンションが現れた。

大悟は手慣れた感じに中へと入っていく。

そして、七階のある部屋の前で足を止めた。
この中で待ってるだろう人物のことを想うと、自然と顔が綻んでくる。

ピンポーン、とインターホンを鳴らすと、一分もしない間に玄関のドアが開かれた。

「大悟、待ってたよ」

笑顔で出迎えてくれた長身の男は漫画家の金剛寺滋樹(こんごうじ しげき)だ。
彼は有名な漫画家であると同時に大悟の恋人でもある。

「滋樹さん!」

自分よりも遥かに高い滋樹の身体に、大悟は己の腕を絡めた。
すると、その小さな身体を包み込むように滋樹の腕が大悟の背中に回る。

こうして抱き締め合っている時間がいとおしい。
滋樹を身近に感じられるから。
大悟はこんな時間が大好きだった。

「大悟、熱烈な挨拶は嬉しいんだけど…いいのか? ここは玄関だけど」

「! ご、ごめんっ」

何よりも愛しい人に会えた喜びで、つい勢いに任せて抱きついてしまったが、ここは玄関なのだ。
すっかり忘れていた大悟は急に羞恥に見舞われた。

「いや、僕は嬉しいんだけどね。でも、せっかくなら中で…もっといいことしよっか?」

耳元で、低く色気のある声で囁かれ、大悟の胸がどくんと脈打つ。

滋樹が言っている“いいこと”の意味ぐらい大悟だって分かる。
昼間からそんなことを──なんて思ってみるが、結局頷いてしまっていた。





寝室に連れてこられ、大悟はベッドに押し倒された。

このまま身体を重ねてしまえばいいのだが、今日の大悟はそういうわけにもいかない。

「ちょ…待って」

「嫌?」

「…──っ」

寂しそうな顔。
大悟は滋樹のこういう顔に弱かった。
いつもなら、はい、分かりました、と許してしまうだろう。
だが、今日は──今日だけは特別なのだ。

「ごめん、ちょっとだけ時間ちょーだい」

滋樹の下から這い出すと、大悟はジーンズのポケットに手を突っ込んだ。
そこから出てきたのは手のひらサイズの小さな紙袋。
わなわなと震える指でそれを握り締める。

「何、それ?」

「う、うん…あのね、これは…」

上手い言葉が出て来ず、大悟の心臓はドクドクと脈を打つ。

だが、これを渡さないわけにはいかない。

「あ、あげるっ」

少々ぶっきらぼうに、手に持っていた紙袋を滋樹の胸に押しあてた。

「え!?…ありがとう」

いきなりのことに戸惑いながらも、滋樹はそれを受け取ってくれた。

「開けていい?」

そんな滋樹の問い掛けに、大悟は何も言わずに頷くだけ。

滋樹は紙袋の口を止めてあるテープを剥がし、中を覗き込む。
中には小さな光る物。
滋樹はそれを自分の手のひらにころん、と取り出した。

「指輪?」

紙袋に入っていたのはシルバーのシンプルな指輪。

「さっき露店で買ってきた」

そう、これはさっき大悟が露店で買ったもの。
たまたま見つけたものだったが、なんとなく滋樹に似合いそうだと思い、これに決めたのだ。

「でも、なんで突然?」

「ほら、滋樹さん、この間、賞とったでしょ? だから、そのお祝い。たまたま見つけたんだけど、滋樹さんに似合いそうだったから」

「大悟…。ありがとう」

覚えていてくれたのか、と大悟の身体を抱き締める。
その滋樹の顔は本当に幸せそうで、大悟まで思わず微笑んでしまっていた。

「で、でも…五百円の安物なんだ。高校生じゃそんなに高いものは買えなくて…。ごめんね?」

「何、言ってんだ。僕にとって大悟から貰えるものは宝石よりも価値があるからね。嬉しいよ」

その言葉が大悟の心をふんわりと包み込んでいく。
最初はドキドキしていた大悟だが、今は幸せの方が大きかった。
滋樹の一言一句が大悟に幸せを与えてくれるから。

迷惑じゃないだろうか?
滋樹さんは喜んでくれるだろうか?

そんな不安が今は一つもない。

(ちゃんと指輪を渡せてよかった)

こんなに喜んでくれて、本当によかった、と大悟は綻ぶ顔を滋樹の胸に押しあてた。

END



【あとがき】
ここまで読んでくれてありがとうございました。
今回は指輪ネタでした!
実は途中でケータイの電池が切れるというハプニングに見舞われてしまいました…。
それも二回!(笑)
でも、なんとか完成出来てよかったです。
☆adios amiga☆
執筆:2010/06/08

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あきゅろす。
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