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捧げ物

棋院からの帰り道、寒い夜道を駅に向かって歩いていった。

切符を買い、改札を通ってホームに立つ。
電車が来るのを待っていると、離れたところに見慣れた姿を見つけた。

(塔矢…?)

遠くてよく見えなかったがヒカルには分かった。

「塔──」

遠くに見える恋人を呼ぼうとした時、ホームに電車が到着した。

ドアが開き、乗客達が一斉に降りてきた。
人波を掻き分けながらアキラの方へ行こうとしたが、乗車する客達に押されて電車の中へと流れ込む。





満員電車に揺られながら数十分。

最寄りの駅に着いて電車を降りる。
改札を通り、駅の外に出ようとした時──。

「進藤!」

「!? 塔矢!」

後ろから大声で呼ばれ、振り向く。
そこには確かにアキラの姿があった。

「やっぱり君だったんだ」

「え?」

やっぱり?
どういう意味なんだろう?

そんな疑問が頭に過る。

「さっき、駅で見かけた」

「っ…塔矢っ!」

アキラはあの人混みの中でヒカルを見つけていた。
それが嬉しくて、ヒカルは思いっきりアキラを抱き締める。

「ちょ…進藤。ここは駅の中だぞ」

いくら何でもこんな公衆の面前で男同士が抱き合っていたらマズい。

アキラは抱きついているヒカルを押し退けようとした。

「分かったよ」

絶対に離れないと思っていた。
だが、ヒカルはあっさりと離れたのだった。

「え?」

当然アキラは不思議に思う。
いつもは離れろと言っても離れないのだから無理もない。

「早く帰ろう」

そんなアキラを余所に、ヒカルはさっさと駅の外へと歩いていった。

「待ってよ、進藤」

アキラも後を追って駅の外に出る。

「塔矢」

外に出た途端、名前を呼ばれ、腕を引かれた。
そのままヒカルに抱き締められる。

「ここならいいだろ? 駅の外だし」

「…全く。君という人は」

ヒカルの屁理屈に少々呆れながらも、アキラはヒカルの背中に手を回した。

外は寒いのに、抱き締められた身体はとても暖かかった。





暫く抱き合っていた二人はようやく身体を離した。

「なぁ、塔矢。今度からも駅の外なら抱き締めてもいいだろ?」

「はぁ? ダメに決まってるだろ」

いくら駅の外と言っても人通りが多い。

さっきだって何人もの人が振り返っていた。
アキラは内心、ハラハラしていたのだ。

「じゃあ、手繋いで帰ろ?」

「え?──ちょっ」

アキラの言葉を聞く前に手を取った。
一瞬のことで抵抗のしようもなかった。

(ま、いっか)

握られた手はとても暖かく、たまにはいいか、と思ってしまうアキラだった。

暗い夜道を二人、手を繋いで家へと歩いていく。
外は寒いのに、握られた手からお互いの体温が伝わって心地いい。

たまにはこんな日があってもいいかもしれない、と思いながら足を進めていった。
*END*



【あとがき】
ここまで読んでくれてありがとうございました。
桜井真綾様から相互記念にリクエスト頂きました!
仲が良い感じのアキヒカということでしたが──こんなので大丈夫でしたか?
駄文で申し訳ないです。
※桜井真綾様のみお持ち帰り可。
☆adios amiga☆
執筆:2010/03/25

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あきゅろす。
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