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「キョンくんっ」

古泉の姿が見えたかと思えば、突然目の前が真っ暗になる。
何ごとかと顔をあげると、そこには自分を抱き締める古泉の姿があった。

「こ、い…ずみ?」

「今日のキョンくんは少し変ですよ? 一体どうしたんですか?」

頭に手を添えられ、古泉の長い指が髪の毛を撫でていく。
すると、怒っていた気持ちが薄くなって、自分でも驚いた。

「言っとくが…お前が全面的に悪いんだからな」

「やっぱり僕が気にさわるようなことをしたのでしょうか?」

「したのでしょうか、じゃねーよ。…なんなんだよ、あの女」

絶対に言わないと決めていたのに、古泉を目の前にしたら、つい口をついて出てきてしまった。
自分でも、やめとけばいいのに…なんて少し後悔してしまうが、放った言葉は止まらない。

「あの女、ですか?」

「とぼけんなよ! この間、一緒に街歩いてた女だよ。ほんとはこんな女々しいこと言いたくなかったのに…」

「この間?…あぁ、彼女ですか」

少し考えたあと、古泉が思い出したように納得した。
同時にキョンの頭には仲良さ気に歩く二人の姿がリアルに浮かんできて、また涙が溢れだしてくる。

「あの人は機関の人間です」

「機関…? でも、あからさまにすごく親しそうな感じだったぞ」

それはただの機関の人間というより、どちらかというと…認めたくないがお似合いのカップルのようだった。
自分なんかよりも、もっと自然にそう思えたのが、なんだかすごく悲しい。

「実は彼女にオススメの店を教えてもらってたんです。もちろん、キョンと行く為にですよ」

「俺と?」

「はい。別に理由はないんですが、何かキョンくんが喜ぶことをしてあげたくて。なのに、逆に泣かせちゃいましたね…」

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