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サブBLSS
誰のせい?(角ヒカ)
シリアス→甘

俺と伊角さんが一緒に暮らしだして一ヶ月が過ぎようとしていた。

自慢じゃないが、俺達は一度も喧嘩をしたことがない。
それ程仲がいい──自分でもそう思ってる。

なのに…あんなことで怒らせてしまうなんて思ってなかった──。



「伊角さん!」

今日はお互いに仕事が休みだから家でのんびりしようと思っていた。
碁を打ったり、テレビを観たりしながら時間は過ぎ去っていく。

「あ、そうだ! 伊角さん」

ソファーで寛ぎながら雑誌を読んでいたヒカルが何かを思い立った顔で伊角に呼び掛ける。

机で本を読んでいた伊角は身体を回して後ろのヒカルに眼を向けた。

「ん? 何? 進藤」

「今雑誌読んでて思ったんだけどさ〜…ここら辺で一番美味しいラーメン屋ってどこなんだろ?」

「ラーメン屋? 何でまたそんなこと?」

きっと読んでいた雑誌に影響されたのだろう、と思った伊角はソファーでヒカルの横に置かれた雑誌に手を伸ばす。
パラパラとページを捲っていくと、そこには『人気ラーメン店ベスト』の文字が──。

(なるほど。進藤はこれを見てあんなことを言いだしたんだな?…可愛い)

お子さまっぽい発想が進藤らしい、と心の中で笑みを浮かべる。
『可愛い』なんて本人に言ったら絶対に怒るだろうな、と伊角は予感していたから。

「じゃあさ、進藤。インターネットで調べてみたら?」

「ネットか〜…それだ!」

伊角の肩を叩きながら「ナイスアイデア!」と笑う。
確かにネットで調べるのが早いかもしれない。
思い立ったら、進藤はそのままパソコンのある方へ足を進めた。

パソコンの前の椅子に腰を下ろし、電源ボタンに手を伸ばす。
そのまま人差し指で押してみる──が、電源が点かない。

「あれ?」

何で点かないんだろう、と思いながら、何度もボタンを押してみる。

だが、結果は同じ。
全く点く気配がない。

「何でだ〜!?」

コンセントもちゃんと刺さっているし、点いてもおかしくない。
なのに点かないということは──。

「…壊れてる?」

答えはすぐに導きだされた。
どうしよう!
壊してしまった。
進藤の中に絶望の音が響き渡る。

「…ほんとだ。昨日はちゃんと動いたのに」

後ろで見ていた伊角が身を乗り出してパソコンが壊れているのを確認した。

「い、伊角さん…。俺じゃねーぞ!」

これは伊角のパソコン。
進藤に緊張が走る。

「……」

何か言ってほしかった。
しかし、伊角は黙ったままパソコンを弄る。

電源ボタンを押してみたり、コンセントの差し込みを確認したり。
それでもパソコンは起動しなかった。

「あの…伊角さん?」

恐る恐る伊角の顔を覗き込むと、彼の口からため息が漏れる。
その表情は明らかに怒りを含んでいた。

(マズい…! 伊角さん、怒っちゃったかな?)

そう思うと眼に涙が浮かんできた。

「進藤!?」

パソコンが壊れたことに困惑していた伊角だが、突然泣き出した進藤に眼を見開いた。
そして、慌てて泣き止まそうとする。

「ごめん…。俺のせいで…パソコン、壊れちゃ…っ」

手の甲で眼を押さえながら、必死に言葉を紡いでいくが、涙のせいでうまく話せない。

「大丈夫、進藤のせいじゃないよ」

今にも壊れそうに震える進藤の手を掴み、目元から外させる。
そこは痛々しく涙で濡れていた。

大事な恋人の涙に心を痛めながらも、つい可愛いと思ってしまった。
きっと進藤に言ったら怒られるな。

そんな伊角の気持ちなど知らない進藤は、歪む視界の中で必死に伊角の顔を捕えようとする。
ようやく合わさったその眼は、進藤を優しく包み込んでくれているようだった。

「伊角、さん?」

だが、てっきり怒っていると思っていたのに、意外な伊角の反応に少し戸惑ったのも事実。

「大丈夫だよ、パソコンぐらい。進藤のせいじゃない。だから、もう泣くな」

進藤に泣かれたら堪らない。
泣き顔は可愛いけど、やっぱり笑っていてほしいから。

零れる涙を人差し指で拭ってやり、そのまま瞼に唇を落としていく。
涙の味が口づけたところから伝わってきた。

「ごめん、伊角さん。…ありがとう。パソコン、修理に出したら直るかな?」

いつまで泣いていてはいけないと思い、進藤はへへっと笑ってみせる。

「俺の方こそごめん。パソコンぐらいで怒って…。このパソコン、よく進藤が使ってただろ? パソコンに向かいながら笑う進藤の顔を見るのが嬉しかったんだ。このパソコンを見る度に進藤の顔を思い出す。…だから気に入ってたんだ。だけど、そんなのに拘って進藤を泣かせてたんじゃ意味ないな。…それに、パソコンぐらい修理に出したら直るよな」

パソコンに詰まったたくさんの想い出は大事だが、伊角にとって何より大切なのは進藤なのだ。
改めて大切なものを確認出来た気がした。

こんなことですれ違うわけにはいかない、と苦笑いを浮かべながら、進藤の背中に手を回した。
そして、そのままぎゅっと抱き締めてやる。

「そうだったんだ…」

伊角さんがこのパソコンに拘るのは俺の顔を思い出すから?
それって…俺、愛されてるって思っていいの?
頭の中で自分にいいような考えばかりが浮かんでくる。

「俺…自惚れていいのかな? 伊角さんに愛されてるって」

「自惚れなんかじゃないよ。俺は進藤を愛してる。進藤じゃなきゃダメなんだ」

自分よりも背の低い進藤の眼を真っ直ぐに見つめ、一言一言大事に紡いでいく。
普段は言えない恥ずかしいセリフも難なく出てきてしまう。

「俺もっ! 俺も伊角さんじゃなきゃダメだよ!」

伊角の言葉が嬉しくて、進藤は今にも押し倒しそうな勢いで伊角の首に腕を回した。
この人が誰よりもいとおしいと実感させられる。

「今日の進藤は情熱的だな」

精一杯の力で自分を好きだと言ってくれる恋人を、伊角も心からいとおしいと思った。
*END*
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あきゅろす。
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