復活BLSS
1
俺はヒバリさんが好きだ。
きっかけは些細なこと。
一年前、いつも通りのダメライフを送っていた俺はいかにも不良っぽい男達に絡まれてしまった。
俺は男達からカツアゲされ、さらには殴られる始末。
そこにヒバリさんが現れ、俺を助けて、盗られた財布も取り返してくれたんだ。
最初は恋だなんて思わなかったが、俺はいつもヒバリさんのことばかり考えてしまう。
まるで初恋をした女子のように。
そして、俺はヒバリさんに対する気持ちと、獄寺君や山本に対する気持ちが全く違うものだと気付いた。
その時、自分のこの気持ちが恋だと自覚したんだ。
だけど、恋だと分かったところで綱吉にはどうにも出来なかった。
男の自分が告白したところで、雲雀は気持ち悪いとしか思わないだろうと思ったからだ。
しかし、だからと言って諦めることも出来ず、綱吉は毎日頭を悩ませている。
「いっそ言っちゃった方が楽なのかな?」
「何がだ?」
「え? あ、山本。なんでもないよ」
今は昼休みでみんなは個々に弁当を頬張っていた。
綱吉はいつものように獄寺と山本に囲まれて、屋上で弁当を開いていた。
だが、綱吉の意識は雲雀に行っていて、つい考えていたことが口から滑り出してしまったのだ。
(あぶね〜。完全に自分の世界に閉じこもっちゃったよ…)
山本に声を掛けられるまで気付かなかったことに心底恥ずかしくなる。
「十代目、何か悩みがあるんだったら、この右腕の獄寺隼人にいつでも相談してください!」
「ありがとう、獄寺君」
まるで犬のように眼をキラキラさせながら言ってくる獄寺に、綱吉は思わず笑みをこぼした。
本当に犬のような獄寺に尻尾が見えたような気がしたのは綱吉の勘違いだろうか?
でも、マフィアとか関係なく、自分の周りに居る彼らの存在は大切な友達で、心配してくれるのはすごく嬉しい。
だけど、いくら信頼出来る友達でも、雲雀に対する気持ちなど、綱吉は相談出来なかった。
そして、放課後になり、山本は部活に行ってしまい、獄寺は用事があるからと、先に帰っていった。
「俺も帰ろっかな」
部活もしていない綱吉は特に予定もなく、帰宅しようと廊下を歩いていく。
長く続く廊下には既に人気がなくなっていた。
ほとんどの生徒は帰っている時間だから当然か。
「あっ…」
何気なく廊下を歩いていた綱吉は、気付くと応接室の前に来ていた。
ここには綱吉が想いを寄せる雲雀が居る。
「ヒバリさん…」
彼のことを考えると、いてもたってもいられなかった。
綱吉は溢れる感情を抑え切れず、応接室のドアをノックする。
「誰だい?」
「あ…いや、あの…俺、沢田綱吉…です」
中から聞こえてきた声に、綱吉の胸が高鳴った。
ドキドキして、声が震えてしまう。
「あぁ、草食動物か。入りなよ」
「っ、はいっ!」
草食動物──たとえそんな呼ばれ方でも自分を知っていてくれたことが嬉しかった。
綱吉は高鳴る鼓動を抑えながら、応接室へと足を踏み入れる。
「で、何か用?」
一番奥にある高級そうな机と椅子。
そこに雲雀が腰掛けていた。
いかにも偉そうな態度の彼だが、綱吉はそんな姿にすら惚れてしまう。
「え?…あ、あの…えっと…」
応接室に来たはいいが、何を言っていいのか分からず、口籠もる。
だが、今この応接室には綱吉と雲雀の二人きり。
こんなチャンスは滅多にないだろう。
綱吉は意を決して言葉を紡いでいく。
「あの…俺、ヒバリさんが…ヒバリさんが…前から好きだったんです」
今までにないくらいにドキドキした。
好きな人に気持ちを伝えることがこんなに緊張するなんて、綱吉は今まで知らなかった。
「何それ? 君、僕をからかってるの?」
「え?…ヒバリ、さん?」
「草食動物のくせに、生意気だよ。消えてくれ。二度とそんな冗談を口にするな」
一世一代の告白だったのに、雲雀には全く伝わっていない。
彼の口から出る無残な言葉が綱吉の心に深い傷を負わしていった。
「あ…す、すみません」
結局、それ以上は何も言えず、綱吉は応接室を後にする。
しかし、雲雀の言葉は重くのしかかるのだった。
それから一週間が過ぎた。
綱吉はまだあの日のことを引きずっている。
明らかにフラれたのだ。
でも、雲雀の言葉はあまりにも残酷で、その傷はとても深く綱吉に刻み込まれていた。
「っ、ヒバリ、さん…」
その名を呼ぶだけで涙が溢れてくる。
このままじゃ涙を止められないと思った綱吉は教室を飛び出した。
長い廊下を走っていく途中、授業の開始を知らせるチャイムが聞こえてきたが、綱吉は一心不乱に駆け抜けていく。
「っ、はぁはぁ…」
屋上まで来て、ようやく足を止めた。
少し冷たい風が吹き付け、走って体温の上がった綱吉の身体を冷やしていく。
「っ、ぅ…」
ここには誰も居ない。
そう考えた途中、今まで我慢していたものが一気に溢れだしてきた。
「何泣いてるの?」
「!?」
一人だと思っていた屋上に自分以外の声が聞こえてくる。
間違えるはずない。
この声は──。
「ヒバリ、さん…」
「当たり。見なくても分かるなんて凄いね」
分かるに決まってる。
好きな相手の声を間違えるわけがなかった。
「ねぇ、なんで泣いてるの?」
後ろから尚も雲雀が質問をしてくる。
それでも涙が邪魔をして声が出なかった。
「答えないと…噛み殺す」
だが、そんな綱吉の事情など雲雀には関係ない。
彼は意地でも吐かせるつもりだ。
でも、なぜだろう?
ヒバリさんあの日、僕をフったのだ。
なのになぜ、そんなに優しい声を出すのだろうか。
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