復活BLSS
2
「十代目!?」
ドアが開く荒々しい音が聞こえたかと思えば、すぐに聞き慣れた声が応接室に響き渡る。
「ご…くでら…君?」
ずっと求めていた恋人が来てくれた。
嬉しいはずなのに、罪悪感で顔がまともに見れない。
いくら無理矢理だったとしても、今の綱吉は雲雀に己の身体を晒しているのだ。
きっと獄寺には自分が雲雀と浮気をしているように見えているのだろう、と思うと、獄寺に合わせる顔がなかった。
「ヒバリ、十代目から離れやがれっ!」
外方を向いている綱吉には獄寺がどんな顔をしているのか分からないが、その声から彼が怒っているのは分かる。
「何を言っているんだ? これは恋人同士の愛の営みだよ。部外者は出ていけ」
「恋人同士だ!? ふざけんなっ! 十代目の恋人は俺だ! 部外者はてめぇの方だろっ」
獄寺君とヒバリさんの言い争う声が聞こえる中、俺は獄寺君が傍に居るという事実に安心して意識を失ってしまった。
「知らなかったの? 綱吉は昨日から僕の恋人になったんだよ。ね、綱吉?」
雲雀はわざと『綱吉』と『僕の』という言葉を強調し、自分の下に居る綱吉に眼を向ける。
「綱吉?…君が来たから気を失っちゃったじゃないか」
「十代目!!」
獄寺は雲雀の言葉に反論するよりも先に、綱吉に駆け寄った。
馬乗りになっている雲雀なんて眼中にないかのように綱吉を抱き寄せる。
「ヒバリ…とっとと十代目から離れやがれ」
「嫌だと言ったら?」
獄寺が最大限の怒りを込めて言っても、雲雀は微動だにしなかった。
「だったら、無理にでも退かせる」
綱吉の身体を抱き締めると、獄寺はダイナマイトを取り出し、それを雲雀に向かって投げつける。
「果てろっ!」
雲雀が避けようとした隙に、獄寺は綱吉を雲雀から遠ざけた。
そして、気を失った綱吉を抱え、脱がされた彼の服と荷物を持つと応接室を後にした。
屋上に綱吉を連れていくと、獄寺は持っていたハンカチで綱吉の身体を拭いていく。
「んっ…」
「あ、十代目。眼が覚めましたか」
「獄寺、君…? っ! 俺!」
眼が覚めたら愛しい人の顔があり、安心した。
だが、すぐに先ほどまでのことを思い出し、身体を起こそうとする。
「ちょ、十代目! まだ無理しないでください」
「俺…ヒバリさんと…あんなこと…! 獄寺君、ごめん。謝って済むことじゃないけど…ほんとにごめん!」
狂ったように謝り続ける綱吉を、獄寺は力一杯抱き締めた。
「謝らなくていいんです。十代目は何も悪くない。どうせヒバリに無理矢理ヤられたんでしょう?」
獄寺の問い掛けに綱吉はゆっくり頷く。
「だったら、謝らないでください。むしろ謝るのは俺の方です。もっと早く来ていれば十代目に辛い思いをさせないで済んだのに…。すいませんでした」
「違うよ。元はと言えば俺がカツアゲなんかされそうになったから…」
「一体、何があったんですか?」
綱吉はこれまでのことを全て話し始めた。
カツアゲされそうになったのを雲雀に助けられたこと。
そのお礼に恋人になれと言われたが、自分には獄寺が居るから、と断ったこと。
今朝、放課後に一人で応接室に来いと言われたこと。
そして、キスされたことも言った。
話していくにつれ、綱吉の眼からは涙が溢れだす。
「それで…応接室に行ったら…ヒバリさんに…俺っ…俺…」
「もういいです! もう、話さなくていいです」
そう言った獄寺の眼から涙が零れ落ちた。
「十代目は俺が守りますから」
「獄、寺…君…?」
「もう、十代目が辛い想いをしないように、俺が十代目──沢田さんを守ります!」
『十代目』から『沢田さん』に呼び方を変えた獄寺に、綱吉は告白された日のことを思い出す。
獄寺が初めて名前を呼んでくれたのが告白された時だった。
結局、呼ばれたのは一度だけだったが。
「沢田さん。俺、あの日、嬉しかったんです」
「え?」
「ここで──この屋上で沢田さんに告白したでしょ? まさか沢田さんも同じ気持ちだったなんて思ってもみなかったんで、好きって言われた時はめちゃめちゃ嬉しかったんです。だから、今日、応接室に行った時、正直、めちゃめちゃショック受けたんですよ」
「あ…ごめ──」
「でも」
やっぱり獄寺に辛い想いをさせたんだ、と思い、綱吉の口から謝罪の言葉が漏れたが、獄寺の声に遮られた。
「こんなこと言ったら、沢田さんはきっと自分に責任を感じる。俺はあなたを責めたいわけじゃないんです。だから、あの場では抑えてたんですけど…沢田さん、さっきから謝ってばかりで…今もごめんなさいって顔してるじゃないですか。あなたのことだから、責任を感じて別れるなんて言いだしかねない」
「でも、やっぱり俺が悪いから…。もう、獄寺君の傍に居る資格なんて…」
「俺の傍に居る資格は俺が決めます。沢田さんがヒバリに襲われてるのを見た時、確かにショックで、ヒバリを殺してやりたいと思いました。でも…沢田さんと別れたいなんて全然思いませんでした。そりゃ、ヒバリにキスされたり、ましてやあんなことされたなんて、相当ショックですが。だって…沢田さんの初めては全て俺がもらいたかったんで」
そう言って悔しそうに苦笑いをする獄寺に、綱吉もつられて笑みをこぼす。
「俺も初めては獄寺君がいいってずっと思ってた」
「沢田さん…」
「なんか、沢田さんって…不思議な感じ。今まで呼ばれたことないから」
「出来たら…綱吉、なんて呼んでみたいんですけど」
頬を赤く染めながら言う獄寺の顔は見ている方が恥ずかしくなる程にデレデレしていた。
同時に綱吉の顔も赤くなる。
「呼んでも、いいよ。獄寺君になら…呼んでもらいたい」
「沢田さ──…綱吉」
「…なんか、照れるね」
そう言った十代目──綱吉の顔はリンゴのように真っ赤で、俺はこの人が本当にいとおしいと感じた。
「ですね」
お互いに顔を見合せて笑い合う。
綱吉はこうして獄寺と笑っていられることがすごく嬉しかった。
「綱吉…あの……キス、してもいいですか?」
「…でも、俺、ヒバリさんに…。いいの?」
「俺が忘れさせます、あんな奴のキスなんか。それに、いいも何も俺がしたいんです。綱吉は嫌ですか?」
言いながら、獄寺は俯く綱吉の頬に手を添え、顔を上げさせる。
女の子のように可愛らしい顔。
でも、子供の肌のようにプニプニしていた。
「嫌なんかじゃ、ない。俺も獄寺君と…キスしたいよ?」
先ほどまで泣いていた瞳はまだ潤んでいて、見つめられると吸い込まれてしまいそうだ。
獄寺は今すぐ押し倒したい気持ちに駆られる。
だが、先ほどあんな目にあったばかりの綱吉に身体の関係を求めることはしたくなかった。
だから、暴れだしそうな気持ちを抑え、必死に理性を保つ。
「綱吉」
ゆっくりと、吸い込まれるように綱吉の唇に己のそれを重ね合わせた。
「んっ」
綱吉の口から小さな吐息が漏れ、獄寺の理性を揺さ振らせる。
そして、鼓動が早く、大きくなっていった。
雲雀からされたキスなど消されていくようだ、と綱吉はまた泣きそうになる。
しばらく触れ合った後、唇がゆっくりと離されていった。
「って、綱吉!? な、泣いて!? あっ、やっぱ嫌だったとか…?」
なぜか涙を流す綱吉に、獄寺は慌てふためく。
「ううん。これは嬉し泣き。俺、ずっと獄寺君とこうしたかったから、嬉しくて」
「綱吉…。今のは…消毒ですよ」
「ふぇっ? 消毒?」
「ヒバリのキスを消したんです。そして、これが…」
離れた唇が再び合わせられる。
今度はさっきよりも長く、何度も角度を変えては口付けていった。
啄むようなそれに綱吉の心臓がはち切れそうなほどに高鳴る。
もう、雲雀のキスを忘れたいとか、そんなことを考える暇もないくらいに──まるでファーストキスのような感覚に陥った。
「っ、はぁっ」
ようやく唇が離れた綱吉の息は荒く、頬も真っ赤。
まるでほんとにリンゴのようだった。
「これが…ファーストキス、ってとこですかね」
顔を反らして言う獄寺が可愛くて、綱吉の口から笑いがこぼれる。
だって、彼の銀髪の隙間から真っ赤な顔が見えていたのだ。
「ちょっ、綱吉!? 何笑ってるんですか〜!」
「だって、獄寺君の顔、真っ赤!」
「! そ、そんなことないッス!」
あまりに慌てる獄寺君を見ていたら、また笑ってしまいそうになった。
でも、ちょっと可哀想だったからやめた。
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