からくり城奇譚
2 トゥエルの山城(3)山頂にて(2)
「確かに何にもありませんね」
城をぐるりと一周してからノウトはガイを顧みた。
「だろ?」
ガイが肩をすくめて腕を組む。
「で、どう? あんたでもわかんない?」
「はあ。でも、必ずどこかに入り口はあると思いますよ。たとえば……こんなところとか」
そう言いながらノウトは何気なく壁に手を置き、そこにあった石の縁に指をかけた。すると、石は横積みされた本のようにあっけなく外へ出た。
ノウトはとっさにその石を押し戻そうとした。が、石の左横の壁にまるで入り口を描くように亀裂が走り、その部分が音を立てて奥へと引っこんだ。
「開いちゃいましたね」
照れまじりに笑ってまた自分の頬を掻く。例の石は飛び出たままだ。
「そうみたいだな」
腕を組んだまま、惚けたようにガイは呟いた。
「どうやら、その石で開け閉めするらしいな。押してもダメなら引いてみなっていうわけだ。こりゃ誰にもわからんわ。あんた、よくわかったね」
「偶然ですよ。で、やっぱりこれから中に入るんですか?」
「せっかく開いたんだから、そうしようぜ」
「じゃあ、兵士たちを呼ばなくちゃ……」
ノウトは元来た道を振り返ったが――
「たぶん、こっちには来れないと思うけどね」
すました顔でガイも背後を見た。
あたかも透明な硝子板に阻まれているかのように、五人の兵士が何事か口々に叫びながら空中を叩いている。
おそらく、彼らが見張りだろう。壁に入り口が出現したところであわてて飛び出してきたものらしい。
「結界を張ったんだ」
目を見張っているノウトにガイは笑って言った。
「今の段階では、奴らは足手まといだからな」
「でも、中に何があるかわかりませんよ?」
はっと我に返って反論する。
「だからだよ。あんた一人なら何とか守れるだろうが、十人も二十人もいたんじゃ、とても手が回らん」
ガイはおどけて両手を上げてみせた。ノウトはまた目を見張って今度はガイの顔を見た。
「あなたが守ってくれるんですか?」
「他に誰がいるよ?」
「いや……ほんとに大丈夫でしょうね?」
「信用ねえなあ。大丈夫、大丈夫。あんたほどのいい男、絶対死なせたりしないから」
にやにやしながらノウトの肩をぽんぽん叩く。
――やっぱり不安だ。
「だから、あんたはしっかりからくりを見抜いてね。今となっては、あんただけが頼りなんだから」
ガイはノウトの顔を覗きこむとにっこり笑った。
「ね、マスター=H」
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