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からくり城奇譚
1 サンアールの王城(2)客間にて(1)
 ガイが案内してくれたのは、客間らしい一室だった。

「まあ、まずはゆっくりして。そこらへん、てきとーに座って。そのうちメイドが茶と菓子、持ってくると思うからさ」

 魔法使いらしからぬ庶民的な言葉遣いで、気さくにガイは言った。
 ここへ来る途中、たまたま会ったメイドにも、こんな調子で命じていた。まだ若いそのメイドは、ぽーっとした様子でガイを見上げていた。あれではガイの言っていることの半分も耳に入っていなかったかもしれない。

「はあ……それはいいんですが、いったい僕に何の御用があったんでしょうか。兵士たちにわけを訊ねても、全然答えてくれなくて……」

 遠慮がちに椅子の一つに腰を下ろしてから、やはり遠慮がちにノウトは訊ねた。

「ああ、あいつらはね。言えないよ。このことは、一応この城内だけの秘密ってことになってるから。さーて、どこから説明しようかな。けっこう長い話になるんだけど」

 まだ立ったままだったガイがそう言ったとき、片開きのドアがノックされた。

「あいよ」

 調子よくガイは答えて、彼のほうからドアを開けた。
 そこには、先ほどのメイドがティーセットと菓子を銀の盆に載せて立っていた。ちゃんとガイの命令は頭に入っていたようだ。

「おー、サンキュ、サンキュ。あとはこっちで勝手にやってるから、君はもう帰っていいよ。ご苦労さん」

 何か言いかけたメイドを遮って、ガイはにこにこ笑いながら彼女の手から盆を取り上げると、さっさとドアを閉めてしまった。親切なのか薄情なのかよくわからない態度だ。

「まあ、食いねえ。疲れてるときは甘いもんがいちばんだよ」

 戻ってきたガイは、手早く紅茶を注いでノウトの前に差し出した。皿には香ばしい焼菓子が盛られている。あの騒ぎで昼を食べそこねたノウトは、今度ばかりは遠慮なく頂戴することにした。
 魔法使いには何人か会ったことがあるが、これほど親切で美人な魔法使いは初めてだ。ただし、男だが。

「……あの」

 ふと顔を上げると、ガイはいつのまにか向かいの席に座っていて、にやにやしながら頬杖をついていた。

「なあに?」

 そのままの表情で機嫌よく答える。どうも彼は、初めて会ったときから暇さえあればこんな表情で、自分を眺めているような気がする。

「あの……お話のほうは……?」
「お話?」

 一瞬、何を言われたかわからないとでも言いたげにガイは眉をひそめたが、

「ああ、そうか。まだ話してなかったっけな。まーた見とれちまったい」

 と言って豪快に笑った。

 ――大丈夫なんだろうか、この人。

 最初は気さくと映った言動も、今では単に脳天気なだけと思えてきた。

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あきゅろす。
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