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からくり城奇譚
5 行き止まりのその先に(4)めんどくさい
「へえ、なかなかいい部屋じゃないか」

 じろじろ見回しながらガイが声を上げた。

「窓と出口があればもっとよかったわ」

 真顔でティータが応える。さすが従妹だ。
 足を踏み入れた瞬間、甘い香の匂いがした。
 やわらかなランプの光に照らし出された部屋の床には、これまでと違い、緋色の絨毯が敷きつめられている。
 周囲の壁は剥き出しの殺風景さを和らげるためか保温のためか、淡黄色の布で幾重にも覆われていたので、例の壁穴は部屋の中からは見えなかった。きっとティータはこの布の陰で聞き耳を立てていたのだろう。
 部屋は円形で、その中央には周囲の布と同系色の可愛らしい天蓋つきの寝台があった。そのさらに横には、大理石製のテーブルと緋色の布張りの椅子とがある。部屋の隅には小さな化粧台まであった。

「まあ、それなりの待遇は受けてたみたいだな。安心安心」

 一人で勝手にうなずきながら、ガイは部屋の端に向かって歩き出した。

「ちょっと、ガイ兄様、出口はあっちよ?」

 あわててティータが背後を振り返る。

「いくら俺だって、そんくらいは覚えてるよ」
「じゃあ、何で?」
「簡単だ」

 とガイはティータを床に下ろした。

「また下に戻るのがめんどくさい」
「ガイ兄様……」

 ティータが軽蔑の眼差しをガイに向ける。実行はしなかったが、ノウトもまったく同感だった。

「だからって、ここでどうするのよ? まさか、また壁に穴をあけて、今度は下に飛び降りるつもり?」

 もちろん、ティータは冗談のつもりでそう言ったのだろう。だが、ガイは驚いたように彼女を見つめると、にやりと笑ったのである。

「さすがだな、ティータ」
「ちょっと、ねえ、まさか本気でそんなことするつもりじゃないでしょうね?」
「いや、本気だけど?」
「ちょっと待ってよ!」

 ティータは頭を抱えて絶叫した。

「壁に穴はあけられるでしょう。でも、それからどうするの? ここは地上一階なの?」
「いや、階数にしたら、ここは地上七階ですね」

 冷静にノウトが口を挟む。

「死ぬわ! 絶対に死ぬわ!」
「大丈夫、大丈夫。人間そんな簡単に死なないって」

 とんでもないことを言いながら、ガイは妙に嬉しそうな顔で両手の開閉を繰り返す。

「そりゃ、兄様は何したって死なないでしょうけど、私はか弱い乙女なのよ? せっかく助かったのに、こんなとこで死にたくないわ!」
「はっはー、もう遅いぜ。二人とも下がってな!」

 ガイが両手を壁に突き出した。同時に、前方の壁が大爆音とともに外へと吹き飛んでいく。
 まるで壁が自分から飛び下りていったかのようだった。冷たい外気が部屋の中へと押し入り強風が吹き荒れる。
 反射的にティータは自分のそばにいたノウトにしがみついた。

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あきゅろす。
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