[携帯モード] [URL送信]

からくり城奇譚
5 行き止まりのその先に(3)ついでに見ていく
 ノウトの反応は一拍遅れた。

「従兄!」
「まあ、とりあえずは」

 不本意そうにガイがうなずく。
 従妹が王女ということは、当然、ガイも王族ということで――

「そんなこと、全然言わなかったじゃないですか!」

 しかし、そう言われてみれば、魔法使いとはいえ居候のガイがサンアールの王城で幅をきかせていたのも、兵士たちに敬意を払われていたのも納得がいく。

「姓は捨てたって言ったろ。今の俺には王位継承権もない。さすがにこいつの従兄はやめられねえけどな」
「それならすぐ助けに来なさいよ!」

 ガイの手を振り払って姫君ティータは噛みついた。

「私、誰に何のためにさらわれたのか全然わかんなくて、ずっと不安だったのよ? もしかしたら殺されるんじゃないかって何度も思ったわ。きっとすぐにガイ兄様が助けに来てくれると思ってたのに、いくら待っても全然来なくて、やっと来てくれたと思ったら男連れで、もーっ、ガイ兄様のバカーッ!」

 安心して気持ちがゆるんだのだろう。言葉とは裏腹にティータはガイの首に抱きついて低い嗚咽を漏らした。
 ガイは面食らっていたが、ティータの頭にそっと手をやって苦笑した。

「悪かった。なかなか連絡がつかなくて、すぐに来られなかったんだ。しかし、ロリアンの野郎、おまえに何も話してなかったのか。――まあ、説明しだすと長いやな」
「ロリアン?」

 ティータが涙に濡れた目を向ける。
 さすがガイの従妹と言うべきか、彼女も人並み以上に美しい。完全さではガイには及ばないが、彼女には少女の愛らしさがある。

「ああ、おまえをさらった主犯だよ。おまえ、声聞いたことないか?」
「ううん。私が会ったのは、青いドレスを着た女の人だけだったわ。人間とは思えないくらい綺麗な人だったけど、ほとんどしゃべらなかった。ねえ、あの人どうしたの? まさか、殺しちゃったの?」
「俺たちは誰も殺しちゃいないよ、姫君」

 一呼吸でガイはティータを片腕に抱き上げた。
 決して小さくはないティータなのに、ガイの足はよろめきもせず、表情もまったく変わらなかった。

「詳しい話は帰ってからするよ。まずはさっさとここを出よう。ああ、ついでだ。おまえのいた部屋も見ていこう」

 ガイはティータを抱き上げたまま、淡黄色の布を掻き分けて中へ入りこんだ。
 そんなことをしている場合ではないだろうとノウトは思ったが、仕方なく二人の後に続いた。

[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!