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からくり城奇譚
5 行き止まりのその先に(2)そういう関係
「おお、ティータ! 無事だったか! ストレス太りしてないか!」

 急に抱きつかれたガイは、それでも相手が誰かすぐにわかったらしく、満面に笑みを浮かべて勢いよく抱き上げた。
 そこにいたってノウトは、その白いものが白いドレスをまとった十四、五歳の少女であることを知った。
 暗い金髪と透き通るような碧眼の、まるで絵に描いたような美少女である。
 しかし、その美少女は、もうやあねと笑いながらガイの頬を思いきりつねっていた。
 傍目にもずいぶん痛そうだったが、ガイはそりゃよかったと笑いつづけている。
 そんな二人に圧倒されて、ノウトはただただ突っ立っていた。

「そういやティータ。よく俺らが来たってわかったな」

 少女を抱き上げたまま、ふと我に返ったようにガイが訊ねた。

「何言ってるの。あれだけ大きい音立てられたら、寝てたって気づくわよ。ガイ兄様だってわかるまで、私、とっても怖かったわ」
「そいつはすまなかった。いきなり入ったら失礼かなと思ってな」
「でも、ノックはなかったわね」

 と、冷ややかに言った少女の目が、ようやくノウトをとらえた。

「ガイ兄様」
「うん?」
「こちらの方は?」

 少女の視線を追って、ようやくガイはノウトの存在を思い出したようである。
 ノウトのことを忘れてはしゃいでいた自分を恥じるように、あわてて少女を下に下ろした。

「ああ、言うのが遅くなった。ティータ、感謝しろよ。この男のおかげでおまえを助けに来られたんだ。旅の時計職人で、ノ……何だったっけ?」
「ノウトと申します。お目にかかれて光栄です」

 この少女が何者かはすでに見当がついている。ノウトは長身を屈めて無難に挨拶をした。
 だが、少女はまじまじとノウトの顔を見つめるばかりである。
 何かまずいことでも言っただろうかと不安に思いはじめたとき、唐突に少女は口を開いた。

「あなた、本当に職人なの?」
「は?」
「まるで役者みたいだわ。おまけに、ガイ兄様のいちばん好きなタイプ。黒髪で、ガイ兄様より背が高くて、礼儀正しくて。ねえ、あなた、ほんとは時計職人なんかじゃなくて、ガイ兄様のこ――」
「余計な口はきかんでよろしい」

 ガイは後ろから少女の口を覆って自分のほうへと引きずり寄せた。

「ダ……じゃなくてノウト。もうわかってると思うけど、このこまっちゃくれたお嬢さんが、我らが姫君、サンアール王国第一王女のティータ姫だ。ま、姫っていっても、そこらの小娘と変わんないから、全然気にしないで」
「はあ……」

 でも、じたばた暴れる一応は姫君を両腕で強引に押さえこむような真似は自分には絶対できないと思う。

「ところで、ガイさんは姫君とはどういうご関係なんですか? ずいぶん親しいみたいですけど」
「無関係」
「何てこと言うのよ。――ガイ兄様は私の従兄よ」

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あきゅろす。
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