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からくり城奇譚
3 落ちた先にあったもの(5)機関室にて(1)
 ちょろちょろ走る白ネズミを追いかけて、歯車の葉が生い茂る鉄の森の中を歩く。
 足の踏み場は何とかあったが、鉄柱が何本も横切っているため、標準より背の高いノウトとガイは、そのたび頭をぶつけないように身を屈めなければならなかった。
 それでもガイは何度か額をぶつけて顔をしかめていたが、彼より身長のあるノウトは、まるでどこに何があるかすでにわかっているかのように、器用に鉄柱を避けていく。

「ダーリン、ちょっと訊いていい?」

 ノウトは立ち止まり、額をさすっているガイを振り返る。
 それに気づいてネズミも止まった。やはり普通のネズミとは違う。

「はい? 何でしょう?」
「最初から思ってたんだけど、この部屋だけでこの城全部の仕掛けを動かすことなんてできんの? それもたった一人で。俺なんかとても信じらんないんだけど」
「まあ、全部は難しいでしょうね」

 口元に手をやりつつ、慎重に答える。

「本来、制御室は別にありますから。でも、僕はちょっと別のことが気になっているんです」
「別のこと?」
「ええ」

 ノウトは何となく周囲を見回してから、ガイに近寄って囁いた。

「あの人、機関にとりこまれてから、もう一ヶ月も経ってるって言ってたでしょう」
「ああ、言ってた言ってた」
「なら――」

 とノウトはじっとガイを見た。

「食事はいったいどうしてたんでしょう?」

 ガイは虚を突かれたような顔をした。が、「たぶん、例の魔物とやらが運んでたんじゃねえかなあ」と答えた。

「でも、一応本人に訊いてみる?」
『聞こえていましたよ』

 いつのまにか小声になっていた二人を脅かすように、いきなりロリアンが割って入ってきた。
 同じ部屋の中にいるというのにその声は部屋全体に響き渡っていて、どこから聞こえてくるのかさっぱりわからなかった。

『そして、お答えいたします。私はここに閉じこめられてから、一滴の水も一かけらのパンも口にはしておりません』

 ノウトとガイは思わず顔を見合わせた。

「それじゃあ、あんた――」

 見えない天井に向かってガイが何事か言いかけた。

『おっしゃりたいことはわかります』

 続くそのセリフを聞きたくなかったのか、ロリアンは強引に遮った。

『ですが、私は何の空腹も苦痛も感じてはいないのです。意識もはっきりしていますし、体もただここから動かせないだけで――』
「動けないのに、どうして仕掛けを動かせるんだ?」

 何気なく、しかし鋭くガイが指摘する。

「俺は素人だからわからねえが、何かしらの作業はするんだろう? それとも、そういう操作ができるところに都合よく組みこまれた≠フか?」

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