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からくり城奇譚
2 トゥエルの山城(7)山城の中にて(4)
「それにしても」

 とガイは口調を改めた。

「あんた、よく俺たちの居場所がわかるな。この城にはそういう仕掛けもあるのか?」

 この質問は、からくり師としてのロリアンの自尊心をくすぐったようだ。

『ええ、床にかかる重さでわかります。あなた方の姿は私には見えません』

 そう答えるロリアンの声には、ひそかな自信と誇りとが含まれていた。

「へえ。俺には驚異の世界だな。じゃあ、あんたマスター≠ゥ?」
『まさか!』

 一転して、ロリアンの声に自嘲が滲む。

『マスターになれていたら、今頃こんなところにはいなかったでしょう』
「でも、イオージュ出身だろ? 違うのか?」
『一応そうですが……落ちこぼれですよ』
「そこまで卑屈にならなくても……実際こんなのが作れるんだから、マスターかマスターじゃないかって、あんま意味ないんじゃないの?」
「でも、職人には意味があるんですよ」

 ロリアンが何か言う前に、ノウトが口を挟んだ。

「マスターの資格を持つということは、生活のすべてを保障されるということですからね。でも、今は金とコネさえあれば、さして実力がなくてもマスターにはなれますよ。イオージュくらいでしょう、なかなかマスターになれないのは」
「ふうん、職人さんは大変だ」

 ガイは何度かうなずいたが、口調はまったく他人事だ。

「魔法使いは違うんですか?」
「うん。俺らの場合、試験があってさ、それに受かんなきゃ、絶対にマスターにしてもらえない。魔法使いなんて世捨て人みたいなもんだから、金もコネも通じない。その点、他の業界よりも完全実力主義かもしんないな」
「へえ……うらやましいですね」
「うらやましいですねって……あんた、マスターじゃないの?」
「とんでもない、マスターが旅などするわけないでしょう。僕は金もなければコネもない、ただの職人ですよ」
「じゃあ、金とコネさえあれば、今すぐにでもマスターになれるんだ?」

 意地悪くそう混ぜっ返される。ノウトは思わずガイを睨んだが、ガイはふと前を向いて足を止めた。

「おい。ここが終点か?」

 その視線の先には穴一つない壁が立ちふさがっている。これまでのように扉が開く気配はない。

『いえ、終点ではありませんが、あと少しですよ』

 今まで黙っていたロリアンがガイの問いに答えた。

「あと少しィ?」

 いかにも不審そうにガイが唇を歪める。だが、ロリアンは動じることなく『ええ』と言った。

『一瞬です』

 同時に。
 二人の足元が傾いた。

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