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からくり城奇譚
2 トゥエルの山城(6)山城の中にて(3)
「魔物?」

 ガイの眉が不審げにひそめられる。

『はい。魔物が私の代わりに手紙を書き、私の代わりにサンアールの姫君をさらってきてくれました。姫君の面倒も魔物が見てくれています。本来なら、姫君ではなく直接職人を連れてくればよかったのでしょうが……姫君をさらえば、腕のいい職人を労せずに集められると思いまして。でも、サンアールにもたいした職人はいなかったようですね』
「サンアールにゃこんな城作らせる趣味はないからな」

 すかさずガイが切り返す。

「まあ、済んじまったことは仕方ない。ところで、俺としてはその魔物とやらにすんごい興味があるんだけど、会わせてはもらえないのかな?」
『姫君をお返しするときに会えましょう』

 あくまでも自分の救出が先、とロリアンは言っている。

「んじゃあ、とっととてめえがいるとこに案内しろよ。こっちはそろそろ腹が減ってきてるんだ」

 一変してガイはロリアンにすごんだ。気持ちがいいくらい現金である。

『わかりました。それでは今すぐご案内いたしましょう』

 そうロリアンの笑いを無理にこらえているような声が返ってきたと思ったとき、何もなかった正面の壁に突如出口が出現した。

『こんなふうに私が扉を開けていきます。あなた方はそこをお進みください。ただし、一度進んだら扉はすぐに閉めてしまうので、後戻りはできませんよ』
「つまり、途中棄権はできないわけね」

 うんざりしたようにガイは言ったが、結局、壁の一部――ロリアンによると扉=\―が上がってできた出口へと向かった。
 あわててノウトも続く。ついでに空中に浮かぶ炎もついてきた。まるで炎それ自体が意志を持つ生き物のようである。
 ガイの後から出口を出ると、そこは先ほどまでいた部屋と同じような部屋だった。と、背後で扉が閉まり、今度はまた別の壁に出口ができた。

「つくづく、わけわかんねえ城だよな」

 そんなことを何回か繰り返した後、呆れたようにガイが言った。

「どんな小さな城にも隠し扉や抜け穴の一つや二つはあるが、ここまで凝る必要はないんじゃねえのか? 金持ちの道楽じゃあるまいしよ」
「ああ、そのことですが」

 それを聞いてノウトは口を開いた。

「ここはたぶん、一種の囮だと思いますよ」
「囮?」
「ええ。一国を攻めるにしてはこの城の規模は小さすぎます。兵糧攻めでもされたら幾日と持たないでしょう。あの入り口だってさっきのように偶然開いてしまうかもしれないわけですからね。しかし、サンアールの注意を引くことはできます。ここがトルドの建てた城だと知れば、当然サンアールは軍の大半を率いて落とそうとするでしょう。そして、その隙にトルドは手薄になったサンアールの王城を襲うんです。このからくりはたぶん、万が一中に踏みこまれた場合の予防線だと思いますね。力まかせに壊して進むにしても時間はかなりかかるでしょう」
「なるほど!」

 ガイは手を打って叫んだ。

「それならわかる! ロリアン君、ご意見は?」
『……考えもしませんでした』

 皮肉ではなく、本当にそう思っているのか、ロリアンの声は硬かった。

『私たちは、サンアールを攻めるために必要なのだとしか……』
「まあ、どこでもそんなもんだな、国ってのは」

 ロリアンに同情したのか、ガイはそんなことを言い出した。

「下には都合のいいことだけ言って、用が済んだら切り捨てる。そしてしまいにゃ切り捨てるものがなくなって、国そのものが消えちまうのさ」

 ノウトはまじまじとガイを見た。
 ガイがこんなことを言うなんて想像もしていなかった。顔だけでなく中身もノウト好みかもしれない。

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