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からくり城奇譚
2 トゥエルの山城(5)山城の中にて(2)
『私はトルドに雇われたからくり師で、ロリアンと申します』

 思わず顔を見合わせたノウトたちに、男はそう名乗った。

「トルド? 今、隣で家督争いやってる?」

 ガイが真剣な表情になる。
 トルドはトゥエル山を挟んだサンアールの隣国で、領土はサンアールよりも広いが土地が貧しいため、経済的にはサンアールよりも劣る。
 そのため、トルドはたびたびサンアール侵攻を試みたが、サンアールの鉄壁の守りの前に常に敗退を余儀なくされていた。
 サンアールにとってトルドとは、隣人でいたくない隣人であった。

『そうです。そして、この城はトルドがサンアールを攻めるために秘密裏に建てたものなのです』
「うっひゃー。トルドの奴、きばったなー」

 ガイが大仰に驚いてみせる。
 からかっているとノウトにもわかる。しかし、トルドのからくり師はそれを黙殺して話を続けた。

『トゥエル山には昔の城跡があった上、魔物が棲むという噂があったので人も近づかず、城を建てるのには好都合でした。私はその城にからくりを施すために雇われたのです。約束された報酬は破格でしたが、私たちはずいぶん急がされました。作業は昼夜を問わず突貫で行われ、その間、魔法使いが目くらましをかけてサンアールに知られないようにしていました。そのかいあって、城は一年あまりで一月前に完成し、私はこれでやっと解放されると思ったのですが……』
「口封じにあったな」

 ガイがにやりと笑った。ノウトは顔をしかめた。よくあることだ。

『そのとおりです。私ばかりでなく、城の建設に携わった者はすべて、石工から人夫にいたるまで、一人残らず切り殺されました。私も殺されかけたのですが、自分で作った仕掛けを使って地下へと逃れました。ですが、暗闇の中をさまよううちに、誤って機関の中に入りこみ、そしてそのままその中に組みこまれてしまったのです』
「組みこまれた?」

 これには、ノウトもガイも驚いて復唱した。

『この状態はそうとしか言いようがありません。また、そのために私はこれまで生きながらえることができ、同時にここから出られなくなってしまったのです。こうなってから知ったことですが、私たちを殺した兵士たちが引き上げた後、トルドの王が急死しました。それからこの城にトルドの人間が来たことはただの一度もありません』
「そりゃないだろうよ」

 そっけなくガイは言った。

「トルドは今、後継者問題で大モメだ。とてもサンアールに手を出せる状態じゃない。それどころか、逆に他国に攻めこまれるかもな。サンアールには今んとこ、その気はないようだが」
『トルドがどうなろうと、私は興味ありません』

 同じ国の人間に殺されかけた男の声は、限りなく冷ややかだった。

『もともと流れ者の私です。トルドも使い捨てのつもりで私を雇ったのでしょう。トルドではなくサンアールに行けばよかったと、私は今たいへん後悔しておりますよ』
「ほんとにね」

 とガイは肩をすくめた。

「そしたら、サンアールも姫様さらわれなくて済んだのにね。――あんた、いったいどうやって姫様をさらった? あんたはここから出られないはずだろう?」
『はい、私は出られません。ですが、魔物が私に力を貸してくれました』

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