ページ:9 僕はこの状況をどう話せばいいのか迷って、思わず黙り込む。 「幽霊、みたいなのが………」 隣で固まっていた秋山が、僕より先に口を開いた。 足跡が向かった方を指差して、彼は経緯を説明する。 甲耶の力かと思ったけれど、彼女がそれを聞いて驚いたように、ふーんと頷くのを見て、僕は背筋がぞっとするのを感じた。 でも一方で、叫んで逃げたり疑わないところを見ると(甲耶自身が特殊な人間だからかもしれないけれど)、彼女達の新手の悪戯なのかもしれない、と思いたがっている自分もいる。 幽霊は、正直あまり信じていないから。 ただ、秋山が“幽霊”とその存在を断定したということは、きっとそれが正しい答えだ。 彼は、一般じゃない。 考えていたら、甲耶の隣にいた彼女が、僕達の所にやってきた。 僕はちらっと幽霊らしきものの足跡を観察する。 けれど、残念ながら最後の部分は遠くてよく見えなかった。 ただ、足跡が動いている様子は無い。 「ゆっきー」 秋山が彼女を呼んだ。 「なぁなぁ!幽霊いたんだよ、今!ほらあそこに!!」 「うるさい」 「ほら!だって足跡あんじゃん!ほら見て」 興奮して叫ぶ彼に、彼女が深く溜め息を吐く。 後ろからちょこちょこと甲耶がやってくるのが見えた。 「ほらね」 彼女が甲耶に呟いた。 「目撃者もいる」 「………うん、そうだね」 「信じてくれる?」 「…………うん」 「いや、ちょとまって何がよ?」 秋山が二人の会話に割って入る。 すると、彼女が邪魔をするなと言いたげに彼を睨み付けてから、また大きく溜め息を吐いた。 状況を観察していたら斜めから視線を感じて、ふと彼女を見る。 彼女と目が合った。 「水出……久遠(クオン)」 いきなり、名前を呼ばれる。 何故知っているんだろう。 不思議に思いつつ返事をする。 すると、彼女も不思議そうに首を傾げた。 彼女が僕を呼んだから返事をしたのに。 僕にはその仕草の意味が分からなかった。 ただ、彼女の琥珀色の目に、僕の全てが見透かされているような気がして。 僕は思わずたじろいだ。 彼女が口を開く。 「見たのね」 僕は、少し考えてから頷いた。 「見た。悪戯?」 「違う」 「なら、やっぱり幽霊?」 「そう」 「自殺をしようとしているみたいだった」 「……違う」 彼女は首を横に振る。 「彼は、空を見たかっただけ。空へ、往きたかっただけ」 「………なんでわかるの?」 「見えるし、分かるし、呼んだのは私だから」 僕は目を見開いてから、思わず足跡をもう一度見やった。 足跡は乾きかけていている。 状況を整理しようと黙る僕の隣で、秋山がすげぇ、と叫ぶのが聞こえた。 「ゆっきーすげぇ!!やばっ!マジ驚いた!」 すると彼女はうるさいとジェスチャーをしてから、僕達を交互に見やった。 「言わないで、誰にも」 「おぉ!言わない言わない!」 秋山の言葉に、僕も頷く。 すると、彼女はほっとしたように頬笑んで、自分の制服の袖をぎゅっと掴んだ。 「ありがとう」 > |