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 僕はこの状況をどう話せばいいのか迷って、思わず黙り込む。

「幽霊、みたいなのが………」

 隣で固まっていた秋山が、僕より先に口を開いた。

 足跡が向かった方を指差して、彼は経緯を説明する。

 甲耶の力かと思ったけれど、彼女がそれを聞いて驚いたように、ふーんと頷くのを見て、僕は背筋がぞっとするのを感じた。

 でも一方で、叫んで逃げたり疑わないところを見ると(甲耶自身が特殊な人間だからかもしれないけれど)、彼女達の新手の悪戯なのかもしれない、と思いたがっている自分もいる。

 幽霊は、正直あまり信じていないから。

 ただ、秋山が“幽霊”とその存在を断定したということは、きっとそれが正しい答えだ。

 彼は、一般じゃない。

 考えていたら、甲耶の隣にいた彼女が、僕達の所にやってきた。

 僕はちらっと幽霊らしきものの足跡を観察する。

 けれど、残念ながら最後の部分は遠くてよく見えなかった。

 ただ、足跡が動いている様子は無い。

「ゆっきー」

 秋山が彼女を呼んだ。

「なぁなぁ!幽霊いたんだよ、今!ほらあそこに!!」

「うるさい」

「ほら!だって足跡あんじゃん!ほら見て」

 興奮して叫ぶ彼に、彼女が深く溜め息を吐く。

 後ろからちょこちょこと甲耶がやってくるのが見えた。

「ほらね」

 彼女が甲耶に呟いた。

「目撃者もいる」

「………うん、そうだね」

「信じてくれる?」

「…………うん」

「いや、ちょとまって何がよ?」

 秋山が二人の会話に割って入る。

 すると、彼女が邪魔をするなと言いたげに彼を睨み付けてから、また大きく溜め息を吐いた。

 状況を観察していたら斜めから視線を感じて、ふと彼女を見る。

 彼女と目が合った。

「水出……久遠(クオン)」

 いきなり、名前を呼ばれる。

 何故知っているんだろう。

 不思議に思いつつ返事をする。

 すると、彼女も不思議そうに首を傾げた。

 彼女が僕を呼んだから返事をしたのに。

 僕にはその仕草の意味が分からなかった。

 ただ、彼女の琥珀色の目に、僕の全てが見透かされているような気がして。

 僕は思わずたじろいだ。

 彼女が口を開く。

「見たのね」

 僕は、少し考えてから頷いた。

「見た。悪戯?」

「違う」

「なら、やっぱり幽霊?」

「そう」

「自殺をしようとしているみたいだった」

「……違う」

 彼女は首を横に振る。

「彼は、空を見たかっただけ。空へ、往きたかっただけ」

「………なんでわかるの?」

「見えるし、分かるし、呼んだのは私だから」

 僕は目を見開いてから、思わず足跡をもう一度見やった。

 足跡は乾きかけていている。

 状況を整理しようと黙る僕の隣で、秋山がすげぇ、と叫ぶのが聞こえた。

「ゆっきーすげぇ!!やばっ!マジ驚いた!」

 すると彼女はうるさいとジェスチャーをしてから、僕達を交互に見やった。

「言わないで、誰にも」

「おぉ!言わない言わない!」

 秋山の言葉に、僕も頷く。

 すると、彼女はほっとしたように頬笑んで、自分の制服の袖をぎゅっと掴んだ。

「ありがとう」





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