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「へー。で?二人でいたってことは、みずちゃんは俺の事も話しちゃったりしたの?」

「いや、話してないよ」

「マジかー。話してくれればよかったのにー。そしたら甲耶氏も一緒に飯誘えたじゃん。いつも一人みたいだし」

 彼はそう呟いてから、購買で大量に買ってきた焼そばパンを、またもしゃもしゃと頬張りはじめる。

 あの修学旅行での一件から二日後。

 体調不良(という名目で)修学旅行を休んでいた親友と、僕は昼食を共にしていた。

 話題は甲耶の事。

 あの後、急いで部屋に戻った僕は先生に怒られる代わりに、部屋のみんなから質問攻めにされた。

 誰かが、外から帰ってくる彼女と、同じ方向から帰ってくる僕を目撃したらしい。

 そしてその話がこの僕とは対照的な友好関係を持つこの親友にも回ってきたようで、会った瞬間にこの話題を吹っかけられた。

 その場で話すのは嫌だと言ったら、昼休みに聞かせろ、と言われて今に至る。

 勿論、彼女の秘密については口外はしていない。

 僕は弁当の唐揚げをつまんで口に放り込んだ。

 すると、それを見ていたらしい彼は二つ目の焼そばパンに手を伸ばしつつ(彼の胃袋がどうなっているのか知りたい)はぁ、と溜め息を吐いた。

「いーなー、みずちゃん」

「何が?唐揚げ?ダメだよ?親の手作りだし」

「ちがうよー。俺も行きたかったってゆーの!ひろしま!」

「あぁ。来れば良かったじゃん。どうせズル休みでしょ?」

 僕がふざけてそう言うと彼は立ち上がって、校庭にまで響きそうな、というか実際に響く声で、なにゆってんの!、と叫んだ。

 ここが誰も居ない屋上で良かった(ついでに言えば、彼の胃袋の他に肺もどうなっているのか少し気になった)。

 僕が耳を塞いで、うるさい、と呟くと、彼は途端に眉間に皺を寄せた。

「おまっ、ちょ、みずちゃん!知ってるくせにーー!」

「あぁ、そうだったの。いいじゃん別に。僕が布団で隠してあげるし。それに夕食の時だってフードでも被っとけばいいんだよ」

「それでもややもっこりすんだろ!!」

「食事中にもっこりとか言うなよ、あほ山」

「秋山!俺は秋山!!」

「あー、はいはい」

 僕はそう言ってから、耳を塞いでいた手を退かして、次は卵焼きに手を伸ばす。

 彼は眉間に皺を寄せたまま座り込み、焼そばパンを極限まで頬張って、遂に三つ目のパンに手を伸ばした。(頬もどうなっているのだろう)

 僕は溜め息を吐いて、静かになった彼を観察する。

 すると、頬も面白かったけれど、それよりも首元や長いセーターから僅かに覗く手首にたくさんの小さい傷が付いているの見つけてしまった。

 やっぱり、分かってはいたけれど、彼は休まざるを得なかったようだ。

 思わず眉を潜める。

「なぁ」

 言われて彼を見ると、彼はさっきと違って悲しそうな顔を僕に向けていた。

 見ていたのがバレたみたいだ。

 僕は取り繕う事無く、ごめん、と呟いた。

「痛そうだったから、つい」

「いんや。心配させてごめんな」

 秋山は食べかけの焼そばパンを膝の上に乗せてから、手を後ろに突いて空を仰いだ。





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