生命とは何か
「この意味が君にも分かるだろうさ。おいらにもよく分かるものね」
彼は独特の口調でそう前置きしてゆっくりと目の前の機械の破片を撫でた。
今まで、あの一瞬まで彼だった物は、とうとう物として価値を見出だし始めた。
「おいらも、すこしかなしいもの。助けようったって、間に合わなかったし」
彼は帽子を深く被り直し、静かに手を合わせる。
「いない神に祈ったところで、まぁ、何にもならんけんど。しないよりはましだわな」
彼の仕草の意味が解らず、僕はなんとなく何故かと問い掛けてみた。いつもは流してしまうのだけれど、今回はそのまま受け入れて、飲み下す価値があるように思われた。彼は笑う。
「けじめみてぇなもんだわな」
「けじめ?」
「まぁ、おいらにも多少解りかねるが、人間っつうのは、なんかでっかい物事が起きるたんびに、踏ん切りをつける為にけじめを利用するんだ。意味は無い」
彼は言い終わると煙草に火を点けて機械の破片の傍にそれを置いた。それが何の今だったのか、僕には十年たった今でも理解できない。ただ、彼は、あのとき嘘を言っていた。それは確かだった。
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