BL
放っておいてほしかった。僕と彼がこうして二人で、(古めかしく言うと)体を重ねていることを。
もちろん誰にも言ったことはないから誰も知らない。
ただ、その行為を気持ち悪いと聞くたびに、おもしろ可笑しくデフォルメされるたびに、僕は背筋から何から、内蔵全てを締め付けられた。
複雑なんだ。
性欲じゃなかった。
ただただ、彼という人が好きだった。
愛を初めて感じた。
僕だって女の子とも付き合ったことがあるし、最後と呼ばれるような段階まで経験したことはある。
けれど、僕の気持ちの感覚と彼女達の感覚はまるで違うものだった。
僕は愛していた。
もうそれは恋じゃなかった。
美しいものを彼女に見せてあげたかった。
おいしいものを食べさせてあげたかった。
僕じゃなくて、その相手が全てだった。
それは間違っていなかったと思うし、別れた今も尽くした事を後悔もしていない。
だけど。
彼に出会ってしまった。
本当に愛されて初めて、自分が尽くしてボロボロになっているのに気付いた。
最初から人として好きではあった。
優しい人だし、清潔感がありつつバイタリティーに溢れていて人気者だったから。
だけど、彼が段々僕と親しくなっていくにつれて、僕は彼の弱さと強さを知った。
彼は孤独と戦っていた。
絵描きを目指す彼は、ストレスを抱え込みやすくて、かといってそれを人にも言わずに、いつも一人の時は眉間に皺を寄せていた。
なのに、僕にとても優しかった。
いつも僕には笑っておもしろい話をしてくれるし、放課後、僕の帰りを教室で待っていてくれた。
僕が見たいと少しだけしか話していないDVDをプレゼントしてくれたり、歌手を目指している僕の為に叱咤して励ましてくれた。
気付いたら、彼がいてくれないと寂しく感じていた。
好きなんだと気付いた。
親友としてでも、愛してくれていると感じたから。
本当は言わないまま、親友として支え合えていればいいと僕は思っていた。
だけど、彼は時々突拍子もない事を言い出す芸術家的思考の持ち主だから。
突然、僕と寝たいと彼が言った。
驚いた。
けれど、彼が真剣だったし、僕も不思議と嫌じゃなかった。
だから、その日はキスだけしてやった。
彼にしては珍しく口籠もっていたし、その時僕を抱き締めた腕がこの上なく震えていたけれど、僕はすごく嬉しかった。
それに彼は言ったんだ。
君においしいものを食べさせてあげたい。
綺麗なものを見せてあげたい。
一番に自分の絵を見せたい。
君が幸せだと思えるように頑張りたい。
愛の概念は人それぞれだと思う。
だから、人には干渉されないものだとも同時に思う。
性を好きになるのか、その人を好きになるのか。
恋をして愛されたいと願うのか、その人を愛したいと願うのか。
僕はどちらでも後者でありたい。
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