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破天荒彼女の正しいあしらい方
 
 彼女の話はいつになく神妙だった。

 母親から言われた一言に傷ついて、思わず深夜に家を飛び出したらしい。

 だから、どうしようもなくなったから家に来た、と彼女はまた俯いた。


 いつもは他人の言うことに穏やかな天使の如く頷いて、人の機嫌を伺っているくせに。

 俺の前ではまるで赤ん坊のように(天使のような赤ん坊ではなく、手の掛かるほうである)泣きじゃくる。

 俺の機嫌はどうでもいいのか、おまえは。


 しかしながら、よくよく考えると、それなりに自分が彼女に信用されているのだろうと至る。

 そしてますます彼女が可愛く見えるから、(俺は末期だ)まぁいいとする。

「それでね、あたしが一生懸命やってるのにね」

 彼女のことばに頷いて、コーヒーを喉に流し込む。小一時間こうしているからだろうけれど、冷めておいしくなかった。

 早く入れ直したいけれど、彼女が膝の上にいて(俺の理性の強靱さに感動を覚えざるをえない)、邪魔なので、どうしようもない。

 彼女の涙を溜めた瞳に人知れず息を飲む。

 が、彼女からの固い信用を崩してはならないので自分の理性に言い聞かせる。


「でもね!あたし……」


 大丈夫。話は聞いている。母親が自分を認めてくれないことが癪なのが話の概要であるのはわかってる。

 ただ聞いてほしいだけなのも知っている。別に苦でもないから聞いているのはいいのだが。

 そんな上目遣いをしないでほしい。

 俺は末期だ。


 思わず彼女の髪を梳いて、頬に触れてこちらを向かせる。

 やわらかかった。

 全部やわらかいのが女の子という生きものなのだろうか。彼女が俺の初めてだから定かではないが、多分、彼女は特別やわらかいんだろう。

 きょとんとする彼女を胸に閉じ込める。やわらかい。

「よしよし。もう泣かないで」

 理性の下りは割愛して彼女にそう伝える。

 彼女は頭を上げて、ワンピースの袖で涙を拭う。

 そうして、彼女は俯いて、うん、と一言。




 コーヒーの薫りが彼女の唇に移るまで、

 あと三秒。







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