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僕らの未来


しまった、と思った。
失言だったと気付いたのは、今まで騒がしかったこの場が、急にしんと静まり返ったからだ。
恐る恐る顔を上げれば、文次郎の顔が見える。
何時もの仏頂面は更に歪んで、憤ったようにその拳は震えていた。

「貴様も忍者の端くれなら、そんな甘い考えは捨てろ!」

怒鳴り声に、僕は身体を震わせた。文次郎はきっと本気で怒っている。僕はまた失敗したのだ。
軽口のつもりだった。いざとなったら文次郎に守ってもらうよ、なんて、軽口でなけりゃ言えることじゃない。
でも、文次郎はそれを冗談だとはとってくれなかった。

「俺たちは一人だ。自分の身は自分で守れ、でないと生きていけないぞ!」

苛烈な瞳で、文次郎は僕を睨み付けた。

「だからお前は忍者には向かないのだ」

そう言うと、踵を返して歩いていってしまった。
その背中を、ただ凝視することしか出来ない。僕は結局何も言い返せなかった。
みんなの心配そうな視線に曝されて、僕はいたたまれなくなる。
誰かが僕を庇う度、文次郎を貶す度、僕は余計に居場所を無くす。
解ってるんだ。文次郎が正しい。
僕はみんなに曖昧に笑って、委員会の仕事があるからと、保健室に逃げ込んだ。
丸分かりの嘘だったけど、みんなは特に何も言わなかった。
ただ、小平太だけが、何か言いたそうな顔をしてた。

保健室は今や僕のテリトリーだ。
僕が手当てを覚えたのは、あんまりにも文次郎が怪我をするから。
彼を庇うことなんか出来ないから、せめてその傷を癒してあげたいと思った。
泣き虫だった文次郎が泣かなくなったのは、いつ頃からだっただろう、僕は覚えていない。
怪我は、多分、減ったんだと思う。留三郎と何時も喧嘩をしているから、その傷を抜かせば、だけど。
だけど、その分、一つの傷が深いものになった。その傷を手当てする度、文次郎が遠くに行ってしまうような錯覚に襲われた。
僕は怖いんだ。
文次郎の言う通り、僕は忍者には向いてないのかもしれない。
みんなと一緒に卒業して、それが何になるのだろう。


「いさっくん…」


カラリと音がして、正面の障子が開いた。
顔を上げるまでもない。立っているのは小平太だ。
小平太は、廊下に立ったまま、保健室には入って来なかった。
僕のテリトリーを侵さないようにだとしたなら、まるで獣の本能のようだ。

「いさっくん、」
「泣いてないよ」

泣いたらいけないんだ。
僕が今ここで泣いてしまったら、逃げたことになる。
僕は確かに甘かった。もしかしたら、例え冗談であったとしても、文次郎が肯定してくれるかもしれない、なんて、考えが甘かった。

「自分でもね、思うんだ。
 ―――僕は、命を助けたいよ」

敵であれ味方であれ、同じ命には変わらないもの。

「文次郎は、いさっくんのことを心配して言ったんだよ。そりゃあ、偉そうな態度だったけど、それが文次郎じゃないか」
「…解ってるよ」
「本当に?なら、良かった。私は二人に仲違いしてほしくないからね」

にこりと、小平太はいつもの笑みを浮かべた。
太陽みたいに明るい笑顔は、いつも僕に元気をくれる。

「ほら、文次郎、いさっくんも解ってるって」

小平太が、横に立っていた人物の腕を引く。
障子のシルエットが動き、現れたのは文次郎当人だった。
文次郎は僕を見る。僕も文次郎を見詰める。

「……悪かった」

文次郎があんまりにも素直に謝るから、僕が堪えていた涙が溢れてしまった。
文次郎は、僕の意地を簡単に崩してしまう。
文次郎を前にすると、僕の意地なんて、砂上の楼閣よりもずっと脆い。

(やっぱり君がすきだよ)

流れた涙の言い訳を、僕は考えられそうになかった。









僕らの未来
(いつかは必ず分かれてしまう道だとしても)

伊→文ですよ。これは需要があるのだろうか。
うち的には文伊でも伊文でもどっちでもいいんだけど。
伊→留→文→利という構図もすきですよ。みんな片想い(ちょ、利吉どこから出てきたwww)。




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