★ スタホ殺人事件 ★
目覚め
駿介は携帯のアラーム音で目が覚めた。
昨日のことがあり、なかなか寝付けずにいたため、寝起きの気分も今ひとつすぐれない。
『ふぁ〜あ…。』
気のないあくびとともに大きく背伸びをする。
「さて、今日はどうするか…。」
駿介は漠然と考える。伊井との約束ではこの土日はスタホ三昧の予定だが、昨日の伊井の様子だと朝まで飲んでいる公算が高い。
先々週も土曜日にスタホを終えて、日曜日朝一番からのスタホの約束をしてきたのは伊井だったが、土曜日の深夜から飲みに行って日曜日朝一番にブルースカイの並びに加わらず、昼過ぎにいかにも二日酔いの重ったるい感じでブルースカイにやってきた。
『まあ、伊井はこないな(^^ゞ』
駿介は1人呟いて苦笑いした。
『さて…。』
駿介は冷蔵庫から卵と納豆を出してきて、丼によそったご飯に豪快にぶっかけた。
「ヴォルテクスがいないとなると、勝負するには漬け終わっているシグマジャイヴとラムダティラミスを配合するか?」
「いやいや、この2頭じゃ良くて怪物(上)、下手すりゃ怪物(中)のスライドでもされた日にはたまったもんじゃねぇし…。」
駿介は丼飯を胃袋にかき込みながら考えた。
「やっぱりC馬で回すか」
食べ終えたところでそう結論づけ、洗面所で顔を洗い、歯磨きして気分を整え、ブルースカイの開店時間の並びに間に合うまで、ボーっとテレビを眺めていた。
テレビではどうでもいいような芸能ニュースが流れていた。
まあ、タレントの誰それができちゃった結婚したとか、俳優が覚醒剤取締法違反で逮捕されたとか、駿介には全く興味がない。ただ惰性でチャンネルをあわせているだけだった。
9時になり、テレビが旅番組に替わったところでスイッチを切り、駿介はスタホセットをショルダーに詰め込んで家を出た。
ブルースカイに到着すると、入口にはチラピンが並んでいるだけだった。
「なんだよ、スタホは俺が1番か…。」
駿介は拍子抜けしながら駐輪場に自転車を止め、チラピンの後ろに並んだ。
『おはよう。』
珍しくチラピンが駿介に声を掛けてきた。
『あっ、おはようございます。』
駿介はぺこりと頭を下げて挨拶した。
『昨日消えたとか言ってた馬は見つかったんか?』
思わぬ質問に
『えっ、あっ、いえ、ダメでした。』
とどもりながら返した。
『なんか、偉い強い馬だったらしいじゃねえか、その消された馬ってのは。』
『ええ、まあ…。』
『やっぱり隣に座ってたあいつじゃねぇのか?』
『わかんないですね…。』
『ガツンと言ってやりゃいいんだよ、ガツンと』
何だかよくわからないが、チラピンが熱く駿介に語りかけてくる。
駿介は対応に苦慮しながらも、チラピンの心遣いが何となく嬉しかった。
『すみません、ご迷惑かけちゃって…。』
『いいんだよ、俺はズルと悪さする奴だけは許せねぇんでな』
『ありがとうございます。』
駿介はチラピンの正義感に少し戸惑いながら再び頭を下げた。
『あいつが来たら俺が問い詰めてやるよ。』
『い、いや、まだ彼がやったと決まった訳じゃないですから店にもう一度聴いてみますから。』
『そうか…。まあ、でしゃばり過ぎも良かねえからな。ガハハ』
チラピンは豪快に笑い飛ばし、駿介も少し気が晴れたような気分になった。
『まあ、困ったことがあったらいつでも言ってきな。』
『あっ、すんません、ありがとうございます。』
駿介は三度チラピンに頭を下げた。
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