★ スタホ殺人事件 ★
疑惑B
「こうなるとほぼお手上げか…。」
駿介はサテに腰をおろすと、天井を見上げて深い溜め息をついた。
CABINmildに火をつけ、深く煙を吸い込み一呼吸おいてから吐き出す。煙はユラユラと天井に向かって登っていきながら消える。
ふと気がつくと伊井はサテに座っていなかった。
「あいつ、どこに行ったんだ?」
駿介は周りを見回すが、伊井の姿は見当たらない。
レースは既にキングジョージまで進んでいた。途中のGTでどの馬が勝ったのか駿介の記憶の中には何も残っていなかった。
ただ、居闇がダービーで勝てずにひどく怒っていたことだけが印象には残っていた。
プレイヤー馬が7頭も出走してきたキングジョージではあったが、駄馬まぐれ勝ちや素質切れの馬ばかりではどうにもならず、直線で先頭争いするプレイヤー馬はなく、ゴーランとグランデラのワン・ツーでレースは終わった。
駿介はどんどんスタホする意欲がなくなってきていたが、伊井が戻って来ないためやめるタイミングを決めかねていた。
「伊井の奴、一体どこに行ったんだよ…。」
駿介は今度は立ち上がって周りを見回したがやはり見つからない。
「無断で帰るとあいつ怒るしなぁ…。」
駿介がそんなことを考えていると、隣からカチカチカチカチとペイボタンを連打する音が聞こえてくる。
「まったく…バカの1つ覚えみたいに無意味なことを…よくやるよ…。」
駿介は呆れて頭の中でそう呟いた…。
『何だよバカとは何だバカとは』
突然居闇が顔を真っ赤にして駿介に詰め寄ってきた。
「えっ?えっ?何?何?」
駿介は何が起こったのか理解できなかった。
「頭の中で思ったことに何で居闇が反応するんだよ。」
『おい、人のことをバカ呼ばわりするとはいい度胸だ。説明して貰おうじゃねえか』
駿介は頭の中でパニックを起こし、対応できずにいる。
『それは無意味にペイボタンを懲りもなく連打し続けるあなたの行為のことを言ってるんですよ。』
突然、背後からベルさんの声がして駿介は振り返った。
『何』
『居闇さん、あなたにはこの前注意しましたよね。ペイボタンを叩いても馬のランプが光る訳でも、ましてや勝ちやすくなる訳でもないと。』
『実際叩くとランプ光るからやってるんだ』
『店としてはペイボタンの接触不良が多発していい迷惑なんです。スタホは叩いて馬を走らせるゲームじゃないんだ。そんなに叩きたいなら、駅前のゲーセンでDOCか、ホースライダースで思う存分叩いてくれ』
ベルさんは一気にまくし立てた。
『ふざけんなよなんでお前にそんなこと言われなくちゃいけねぇんだよ』
居闇が反論するが、その反論に対してベルさんの後ろからえま店長が
『このメダルフロアは、この鈴成に管理を任せてますから、お気に召さなければ退店いただいて結構です。』
と丁寧に言葉を添えた。
この騒ぎに、サテの前の方から
『カチカチうるさいんだよね。』
『別なゲームやれよ。』
と声があがる。
居闇は顔を真っ赤にして
『何を』
と叫びかけたが、すぐにやめ、サテに腰をおろした。
この展開に目を丸くしていた駿介に、ベルさんが
『駿介、思ってても口に出しちゃダメだよ。』
と微笑みながら声を掛けてきた。
『えっ、俺、声に出してた?』
『あぁ、俺にも聞こえたよ。』
『マジかよ…』
無意識のうちに言葉になって出てしまったのだろう。
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