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★ スタホ殺人事件 ★
混乱

伊井は皐月を快勝し、厩舎に戻る『スカイエメラルド』を満足げに撫でていた。

一方、駿介を挟んだ反対側の居闇は、無言でサテを一発叩いてブスッとした表情のままだった。

「触らぬ神に祟りなし…」

駿介は自分のサテの作業に集中することにした。

ところが、突然居闇のサテがエラー音と共に操作不能の状態に陥って、駿介の願った静けさは壊された。

『なんだよ、まったく!』

居闇が目をつり上げて怒鳴った。

『店員呼んで来ますよ。』

神戸居闇の機嫌を窺うようなそぶりで店員のいるカウンターへ小走りに向かった。

しかし、カウンターにはちょうど店員が誰もいなかったようで、なかなか神戸も店員も戻って来ない。次第に居闇のイライラが高まってくる。

「怪物が厩舎に入ったままだからな…」

駿介は少し居闇がイライラしたくなる気持ちが理解できた。

神戸がようやく店員の早間くんを呼んで来たのは、春天のレースが始まる頃だった。

『おせーよ!何時間かかってんだよ!』

居闇神戸に対してなのか、店員の早間くんに対してなのか、どっちにもとれるような怒鳴り声をあげた。

『すみません。ちょっとみてみます。』

早間くんが手早くサテの横のメダル投入口を開けて調べる。その間、時間はどんどん過ぎてレースは最後の直線に入っていた。

『これで大丈夫です。ご迷惑をお掛けしました。』

早間くんが素早くメダル詰まりを直し、居闇に謝った。

『遅いんだよ。どうしてくれんだよ、この2週分!』

イライラしている居闇は、素早く対応してくれた早間くんにくってかかった。

『あ〜?どうしてくれるって言ってんだよ!』

居闇は早間くんに顔を突きつけるようにしてまくし立てた。

『すみませんでした。』

早間くんは丁寧に謝ったが、居闇の怒りは収まらないようだった。

ただならぬ雰囲気に、伊井が店長を呼びに走った。

『ったく、何の役にも立たねえ〜な!』

居闇はそう言い捨てて、自分のサテにどっかと座った。

やがて店長のえまさんが伊井と一緒にやってきた。

伊井は自分のサテに戻り、えまさんは居闇のサテの横に立ちつくす早間くんの肩を後ろから叩き、替わって居闇のサテの横に立って丁寧にお詫びをした。

『店長がそこまで言うならもういいよ。』

居闇もさすがにえまさんの丁寧なお詫びに、バツが悪そうにそう言って馬の調教を始めた。

えまさんが居闇に深々と一礼をしてサテを離れると、駿介はサテを離れてえまさんの後ろから

『さすが、店長は一味違うね。』

と、冷やかし気味に声を掛けた。

『早見さん、おだてたって何も出ないよ。これが僕の仕事なんだから。』

えまさんはニコッと笑って駿介にそう答えた。

『さすがに4つもゲーセン経営してるだけあるね。』

更に駿介が冷やかすと、えまさんは何も言わずに右手を上げて「おう!」とでも言いたげな後ろ姿を残してカウンターに戻って行った。

それを見ていた早間くんが

『ちょっとキザですよね。』

と、舌をちょっと出しながら駿介に話し掛けた。

『まあな。でも店長らしいじゃん。』

『でも、ホントは社長だから、社長って呼ばないと変なのに、社長って呼ぶと怒るんですよ。』

『そりゃそうだろう。客商売で店の中で社長って呼んだらダメだろう。』

『あっ、そうか。』

すっかり陽気な早間くんに戻り、駿介に一礼してカウンターに戻って行った。

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あきゅろす。
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