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★ スタホ殺人事件 ★
足で回る

轟刑事以下、刑事課の面々は聞き込み作業に専念していた。

初動捜査の大切さは轟も十分承知している。

人間の記憶は時間の経過とともに薄れていく。これだけはどうにもならない。ましてや自分が興味を持って見たもの以外なら一層拍車が掛かる。

轟はかつての事件で、嫌というほどこの初動捜査の大切さを味わっている。だからこそ、今回の事件でも誰よりも精力的に動き回って僅かな情報でも逃すまいと必死になっている。

しかし、そうそう簡単に重要な情報がつかまる訳ではない。無駄足となることの方が多いのだ。

轟は一緒に回っている町田とともに昼過ぎに一旦聞き込みをやめて喫茶店に入った。

『アイスコーヒー、ホットで

轟がアルバイトと思われる女の子にサラッと注文する。

『アイスコーヒーですね。』

女の子はあっさりオーダーを繰り返し、町田のアイスココアの注文を聞いて戻っていった。

『おいおい、突っ込みなしかよ…

轟はせっかく女の子との会話を楽しもうと冗談混じりで注文したのに、ノーリアクションで終わったために、苦笑いでごまかすしかなかった。

『轟さんのちょっかいも、相手によっちゃ全く効果ないっすね。』

町田が冷やかすように轟に話し掛ける。

『うるせぇ堅物のお嬢ちゃんには無理があるんだよ。』

『僕は好きですよ、轟さんの見境なく相手をからかうとこ。』

『おいおい、おちょくってんのか?町田。』

轟が少しムッとした表情で町田を睨む。

『お〜っ、怖っ。』

町田がおどけて肩をすくめながら笑った。

『しかし、情報ないっすね。』

『そうそう簡単に目撃証言なんてみつかんねぇよ。せめて害者の身元だけでも判れば手の打ちようがあるがな。今の状態じゃな。』

『そりゃそうっすけど…。何で害者は殺されたんですかね?』

『お前なぁ、もうちょっと刑事らしいセリフないの?それを調べるのがうちらの仕事でしょ?わかっちゃったらうちらの仕事いらないだろう…。』

『そりゃそうでした。』

町田が舌をちょっと出しながら頭を掻いた。

店には2人のテーブルから少し離れたテーブルで、若者2人がメロンソーダらしきものを飲みながら話している以外に客はいない。

『何で宝塚ディープがA着なんだよ…。B着なら美味しかったのに…。ブリーダーズカップも最後鼻差A着粘るし、もぉ〜。』

『仕方ないだろう、そうそう美味しくはないって。』

2人の会話が聞こえてくる。

『何言ってんですかね?ディープは宝塚圧勝したでしょ。それにディープが行ったのはブリーダーズカップじゃなくて凱旋門でしょ。』

町田が首を傾げて呟く。

『あれはスターホースってゲームの話だよ。』

『えっ?そうなんですか?でも何で轟さんが知ってるんです?』

『あはは、俺もそのゲームやってるから。』

『な〜んだ、そうなんですか。話が違う訳だ。』

町田はなるほどという表情で頷いた。

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