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ペルソナ少年とかき氷


しゃくしゃくとかき氷を食べながら、瑞浪一樹と名乗ったその男は当たり障りのない世間話をぽつぽつした。

暑いね、とか。
かき氷おいしい?とか。

「シロップがちょっと酸味があって、すごくおいしいです」

年上とわかってちょっと緊張したおれはなんとなく敬語で言葉を返す。
瑞浪さんは心底照れているようにはにかみながら、そお?と首をかしげる。
なんだか、家にいるような雰囲気だ。

と、忘れかけていた。
ちゃんとお礼を言わないといけない。

「瑞浪さん、今日は介抱していただきありがとうございます。かき氷までご馳走になって、」

瑞浪さんはざくざくと雪山を崩しながら、いいよ、となんの気負いもなく言った。

「それにしても、何であんなところに倒れてたの?」

「ああ、あれは、」

おれはすっかりこの天然っぽい先輩に心を許してしまったようで、熱中症で倒れるまでをべらべらとすべて話してしまった。
本当は、キャラのためにもこんなことは秘密にしておくべきだろうけど、この人の独特の安心感はそんな気負いさえも流してしまう。

「ふふふ、君、わりと抜けてるんだね。高校生にもなって帰りのバス賃がなくなって帰れないとか、」

瑞浪さんはこらえ切れないように背中を丸めて笑いながら、額に薄く浮いた汗をぬぐう。
冷房が効いているとはいえ、少し動くと暑くなる。
それからたっぷりと数分間笑い続けた瑞浪さんは、ようやく体を起こしておれを見た。

「まあでも、死んじゃう前に見つけられてよかったよ」

「はい、本当にありがとうございます。なんてお礼を言ったらいいか」

「いいよ、べつに。それにおれも、あの氷の貴公子様の素顔が見れて、面白かったし」

その瞬間、おれは溶けて液体になったかき氷を危うく噴出しそうになった。

「え、ちょ、なんで、」

「え、そんなに驚かないでよ、おれ、そこの生徒だったの。で、三年のときに君が入学してきて、生徒会の人があいつはいずれ生徒会に入れよう、なんて騒いでたから」

瑞浪さんは慌てたように説明し、そして咳き込みそうになっているおれの体をさすろうと手を伸ばす。
でも、おれは急に恐ろしくなってその手を避けた。

「それで、おれのこと知ってたんですか」

「うん、卒業したあとも、時々高校には顔出してたから。名前は氷上、蒼馬くん、だっけ?」

おれは思わず頭を抱えた。
どうしよう。
二年以上保ってきたキャラがこんなところで崩壊するなんて。

「何か、悪いこと言ったかな?」

露骨に避けられた瑞浪さんは不安げな表情でおれを覗き込む。

「いや、別に、あなたは悪くない。でも、本当はおれがこんな人間だってこと、誰にも言わないでほしいんです」

おれは口元をぬぐって瑞浪さんに向きなおった。
こうなったら洗いざらい告白して何とか理解してもらうしかない。
おれはそう思い、こんなキャラを作るにいたった経緯やいまさら皆に幻滅されたくないこともすべて話した。

こんなことを人に話すのは初めてで、かなり恥ずかしかったけど、何とかすべてを語り終える。

瑞浪さんはしばらくあっけに取られたような顔で固まっていた。
それもそうだ。
顔と名前はなんとなく知っていたけど、ほぼ初対面な人からこんな馬鹿みたいな話を聞かされるなんて。
おれだったら頭大丈夫かって聞き返してる。


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