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ペルソナ少年とかき氷


おれはしばし呆然としてから、せっかくだからとスポーツドリンクに手を伸ばした。

親切な人に拾われて良かったな。
男に膝枕したりちょっと変なところもあるが、わざわざ行き倒れの人間を介抱するなんていい人すぎる。
ちゃんとお礼言わないと。

それにしても、とおれは頭を抱える。

この人、天然なのか?
おれはそういうことに関して分別はあるからそんなことしないけど、そういう人種の人たちからしたら膝枕なんて誘ってるとしか思えない。
さっき少し会話した感じだと、あの人もゲイってことはなさそうだけど…。
やっぱりちょっと変わってる。
でも、もしあの人がおれの好みドストライクだったら思わず勘違いしちゃってたかもなあ。

地味ながらも決して不細工というわけではない男の顔を思い出す。
平均的な顔だったけど、まぶたが眠たげな二重であったことは印象に残っている。

ちなみにおれの好みは目がパッチリしてて元気のいい明るい子だ。
ちょうど生徒会にいる後輩がまさにストライクど真ん中なんだけど、彼にはもう恋人がいるらしくおれは涙をのんであきらめた。
もう一人、淡い思いを抱いている子はいるのだけど、
そこまで考えておれは頭を強く振った。
ちがう、こんなこと考えてはいけない、もう振られたんだと自分に言い聞かせる。

「あれ、どうした?まだ眩暈する?」

ちょうどそのとき男が両手になにやら抱えて戻ってきた。

「あ、いや、なんでもない」

おれが首を振ると、そう?、という相槌とともに両手に抱えているものをちゃぶ台に広げ始めた。

「君も食べる?かき氷」

それは今頃珍しい手動のかき氷機だった。
男は無言のおれをよそにロックアイスをがらがらとセットして、氷を削り始めた。

「シロップもおれの手作りなんだ」

男の顔は得意げで、おれは思わず、いる、と返事をしていた。

「よしきた」

男はにっこりと笑うと勢い良くがりがりとハンドルを回す。

ちょっとというか、かなり変わった人だ。
見ず知らずの人にかき氷いる?とか。

まあでも甘いものは好きだし冷たいのも大歓迎なので素直にいただこう。
実はものすごい不良だったりして料金を請求されたりしたら全力で逃げることにする。

涼しげなガラスの器に白い雪のような氷が降り積もり、男は器用にそれを山形に成形していく。
それを半ば感心してみていると瞬く間に一人分のかき氷が出来上がった。

「はい、どうぞ。シロップはイチゴ味と、レモン味と、新作のマンゴー味。好きに選んで」

男は小鉢に入れたシロップをおれに押しやり、次のかき氷製作に取り掛かる。
おれは小さいスプーンがついているマンゴー味のシロップの小鉢を引き寄せる。
シロップというか薄めのジャムといった感じだが、果肉がところどころ入っていておいしそうだ。
こんなの作れるなんて、この人はパティシエか何かだろうか。

「これ、ぜんぶ手作り?」

「うん、わりと簡単だよ」

男はあっさりと肯定した。

「あなたは、パティシエかなにか?」

「まさか!普通の大学生だよ」

ふーん、すごいなあ。
と、そう思いかけて絶句する。

「大学生!?」

「うん、大学二年生」

まさか、年上だったとは!
おれは普通にため口を利いていたことに慌て、思わず頭を下げる。

「すいません、あなたとは同じ年ぐらいだと」

「やだな、謝らないでよ、それに、あなたとか、ふふ、くすぐったいな」

男は笑い、出来上がった山盛りのかき氷を引き寄せた。

「じゃあ、あの、名前は?」

おれが聞くと、男は豪快にレモン味のシロップを雪山にぶちまけながら答えた。


「瑞浪一樹」


これがおれと一樹さんが出会ったいきさつだ。



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