ペルソナ少年とかき氷
3
何も言うな!
おれはそう叫ぼうと目を開いた。
「うわっ」
その瞬間、ごとんっという衝撃が頭に走る。
焦点が定まらないまま、上から誰かが覗き込んでいる様子が見えた。
おれはどうやら横になっているようで、ぼやけてはいるが古びた板張りの天井が視界の端に入る。
「おどろいた、急に目を開けるから思わず落としちゃったじゃないか」
おれを覗き込んでいた(声から察するに)男が言う。
「ごめんね、痛かった?」
眼鏡をかけていないから顔ははっきりと見えない。
おれはドがつく近眼だ。
男はさすさすとおれの後頭部をなでると持ち上げてひざの上に乗せようとした。
まさか、さっきのごとんという衝撃は膝枕から転がり落ちた衝撃だったのか!?
おれはあわてて体を起こした。
「あっ、急に起き上がったら!」
おれはその瞬間強烈な眩暈に襲われ、再び倒れそうになる。
何とか手をついて耐えると、徐々にそれは収まっていった。
男がまだ心配そうにしているのが感じられたので、とりあえず愛想笑いをしてみる。
「すいません、大丈夫です」
男の肩に入っていた力がほっと抜けていくのがおれにもわかる。
男は畳の上を探り、眼鏡を差し出した。
「よかった、はい、眼鏡」
「ありがとうございます」
眼鏡をかけると、ようやく世界は鮮明になった。
狭くて古い和室にはおれとその男の二人しかいない。
かなり年季の入ったクーラーからは少し湿っぽいながらも涼しい空気が吐き出され、おれの首筋に残った汗を乾かしていた。
その汗でおれはいろいろなことを思い出した。
おれは道路で意識を失って、それで、どうやらこの男に助けられたらしい。
「あの、おれは、」
とりあえず確認しようと口を開く。
「君、おれんちの前で倒れてたんだよ、ほんとびっくりした」
おそらく熱中症だったんだろう。
まだ少し頭がくらくらしているが、意識ははっきりしている。
ほんと死ななくて良かった……!
「意識が朦朧としてるみたいだったからとりあえずおれの部屋まで運んで、それで水分取らせたけど、もう大丈夫?」
「あ、うん、大丈夫です。ありがとうございました」
おれはにへら、と笑ってからはっとした。
しまった!
もし魁稜高校の関係者だったらまずい、おれのキャラがいまさら崩れるのは避けたい。
でも、その心配はなさそうだった。
男は茶髪で、耳にはピアスもあった。
魁稜高校はかなり校則が厳しいので、他の学校の生徒だろう。
年はおれと同じか一つ下といったところか。
それにしても、髪の色も明るいしピアスの穴も2、3個開いているのにどうにも地味な雰囲気だ。
「体が冷えるまで少し休んでいくといいよ、ここにスポーツドリンクも置いてるから好きに飲んでね。おれ、台所にいるから」
男はとん、とペットボトルをおれの前において立ち上がった。
華奢で白いふくらはぎがおれの前をすたすたと通り過ぎていく。
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