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ウィザード


「あ、留学生三人は今日はクラスとは別プログラムだ。属性を調べなきゃいけないし、制服とかも届いたらしいぞ」

何をするでもなく席にぼけっと座っていたら、先生から手招きされた。
あわててその後を追って教室を出る。
さびしいけど、また放課な、と送り出してくれたクラスメイトたちに思わず目頭が熱くなる。
なんていい奴らだ!
たかが半日一緒にいただけなのに。
幸仁には感情豊かでうらやましいとよく言われるが、ここまでくるとおれ自身もちょっとやりすぎかもしれない。

「あー、テンノウジ、同室者は変更しといた方がいいよな、やっぱり同じクラスのやつがいいよな?」

先生は廊下を歩きながら、少し天王寺を振り返った。
天王寺はきょとんとした顔をした。

「どうして変えるんだよ」

「いや、あんなやつだとお前も困るだろう。カスケードは素行もよくないし学校にだってあんまり来ない、慣れないお前には辛くないか」

先生の心配は尤もなものだった。
もしこれが天王寺じゃなく幸仁だったら、間違いなく変更を申し出ていただろう。

「先生!そうやって決め付けるのはよくないぜ!あいつは無愛想だけどいいやつなんだ!おれはちゃんと知ってる!だから、おれとここでの初めての友達を引き離さないでくれよ!」

天王寺は急に立ち止まると熱くそう語った。
イイハナシダナーとは思うけど、違和感は否めない。
ちゃんと知ってるって、天王寺はこの一晩で同室者の何がわかったというのだろう。
それこそ決め付けてやいないかとは思ったが、先生に任せることにする。


「………天王寺……!」

て、あらら。
先生は痛く感動しているようだった。
教室では見せないような表情で自然に微笑み、ぽす、とそのモップ頭に手をのせる。

「おまえ、見直したぜ」

「へへ、おれは当たり前のことを言っただけだぜ!」

「あたりまえ、か。みんなが天王寺みたいに考えられるといいんだがな……」

「やめろよ先生!おれは天王寺礼王!礼王って呼べよ!」

おれはその瞬間ピーンと来たのだ。
このもっさりした頭、肝が据わった物言い、今日の朝の副会長との遭遇、
そして、○○って呼べよ!という名前呼び強制発言!

こいつ、王道転校生ってやつだ!

実際は小説よりも奇なりとはよく言ったものだ。
姉の大好きなファンタジーの世界が、本当に目の前で繰り広げられるとは。
残念ながらおれは姉に侵食されつつも腐らなかったのでその萌えはわからない。
ちょっともったいないことしたかもな。

完全に二人の世界に入り込んでしまった天王寺と先生は、おれらのことは置いてけぼりで再び歩き始めた。
後ろをついていく俺たちのいたたまれなさは、幸仁が少し涙ぐむ程だった。

東棟を後にしたおれらは魔法学校本部と呼ばれるところに到着した。
そこで忙しそうにしているおっさんもおばさんもみんな頭は極彩色で、ちょっと面白い。
波平スタイルにはげたおっさんの頭のてっぺんに生えている毛が遠目にも鮮やかな緑色だったときには、危うく腹筋が崩壊するところだった。

「ベルガ先生、留学生連れてきました」

先生が職員室らしきところに向かって呼びかけると、中なら若い男の人の返事がした。

「じゃ、おれはここで。がんばれよ、レオ!」

「おう!」

アルビレオ先生の仕事はここまでらしかった。
中からいそいそと出てきた人が、おれたちをみてにっこりする。

「君たちが留学生か!僕は君たちをサポートすることになったベルガ・シュ・カペンシスです。地属性の先生をしているよ」

彼は礼儀正しそうな手つきで手を差し出し握手を求めた。
でもおれたちはすぐにその手をとることはできなかった。
今日の朝みたいに強く手を握り返されることを警戒したわけじゃない。
眼鏡かけたまじめそうな先生だしそんなことするわけない。
おれたちが戸惑ったのはその、手の位置だった。

ベルガ先生の手はしたから伸びてきている。
おれたちよりも背が小さいんだ。
その小ささが、なんていうか、普通ではなかったのだ。

おれは大体日本人の平均くらいの背丈がある。
幸仁はもっとちっちゃいけど、先生は幸仁よりも15cm近く小さかった。
145cmぐらいだろうか。

先生がきょとんとした顔で首を傾げたのでおれはあわててその小さな手をとった。

「椎葉、緑です」

「よろしくね」

なんか、子供を相手にしているようだったけど、微笑む先生の表情は大人っぽくてますます戸惑う。
先生の髪と目は温かみのある茶色系統の色で、しかも髪がくるくると巻き毛だったから、某有名指輪ファンタジーの主人公を思わせた。
そのくるくるな長めな巻き毛を後ろでひとつに束ねていて、ぴこぴこはねてるのがかわいい。

幸仁や天王寺とも同じく握手をしたベル先生は、いまだもじもじしているおれをみて、手を打った。

「ああ、そうか!君たちの世界には人間以外の種族はいないんだったね」

それは人間の形をした人間ではない生き物、という意味だろうか。

「僕はね、モルフェスという種族なんだ。君たちの世界のイメージからすると、小人さん、ってところかな」

おお……!
小人ってほんとにいたのか!

おれはえもいわれぬ感動を覚えてジーンとした。
すごい。
なんかほんとにファンタジーな世界に来ちゃったんだ……!!

「いろいろ戸惑うことはあるかもしれないけど、なんでも頼って大丈夫だからね!じゃ、とりあえず別室に移動しようか」

ベルガ先生はきびきびした動きで先頭に立って歩き始める。
その動きもリスみたいでなんか和んだ。



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あきゅろす。
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