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ウィザード


ほんとに戸惑うくらいに普通に雑談しながら教室に入ると、少し視線が集まったけどみんなすぐにそれぞれの会話に戻った。
辞書に載せてもいいくらいの標準的な教室のざわめき。


こんなにも日本と文化が似ている、というよりまったく同じな理由は、実はこの世界の人間にもわからないらしい。
学者が言うには、おれらの世界とこっちの世界はいわばパラレルワールドになっていて、双子のように対になっているからだとかなんとか。
まあ、不便が少なくて助かるので、深く考えることはやめた。

「あ、そうだ。ロク、平和に暮らしたいなら気をつけたほうがいいやつらがいるんだ」

前の席に座ったタイガが、おもむろにこっちを振り返ってそうささやいた。
周りをすばやく見回して、小さくこっそりと、でもひどく真剣に言葉を連ねる。

「生徒会と、風紀のやつには気をつけろ」

「どういうこと?権力振りかざすようなやつなのか?」

「いや、個人としてはすごいやつばっかりだよ。成績もいいし、リーダーシップもある。アブナイのは、その崇拝者たちだよ」

タイガは忌々しげに眉をしかめて言った。
そんな険しい顔でも様になるイケメンはずるい。

「この学校さ、共学とは言っても環境的には男子校と同じなんだ。中高一貫で、ここにいるほぼ全員は6年間ずっと男しかいない社会で育つ。どういうことか、わかるよな?」

「…………。」

「そんな切なそうな顔するなよ、仕方ないんだ。みんな若くて飢えてるから、かわいいやつとかかっこいいやつはそういう対象になる」

「ああ、みなまでいうな。わかったよ、そういうことね」

おれはふか〜くため息を吐いた。
そういう道を歩む姉に教え込まれたおかげで、おれはタイガのその言葉で状況をすぐに理解した。

つまりここは、いわゆる王道学園と化しているのだ。
絶大なカリスマ性と美貌を持つ生徒会、それに対立する風紀委員、そしてそれぞれの人物を神のごとく崇拝する親衛隊。
だから、むやみにその神に近づいたおれのような平凡野郎は容赦なく排除されると。

そこでふと不安になって正面の整った顔を見つめる。

それだけでおれの言わんとしていることを悟ったのか、タイガはあわてて首を振った。

「おれは大丈夫だよ!中等部のとき一時期騒がれたけど、おれぐらいのやつはこの学校にはいくらでもいるし、親衛隊も解散させてる」

解散って、できたことはあったんだな。
不安要素はあれど、タイガ自身すごくいいやつだから、おれは関係を断ち切ろうなんて思わなかった。
不安げなタイガにそう伝えると、ほっとしたように表情を和らげた。

「これからも、よろしく頼むよ、あと、」

おれは隣でカイロスと会話している幸仁を少し見やって、声を潜める。

「幸仁のことも、気にしてやってくれるか?おれは割りと神経図太いけど、幸仁はセンシティブボーイなんだ」

タイガは笑い出しそうに唇をもぞもぞさせていたが、なんとか真剣な表情を保ってうなずいた。

しばらくして先生が教室に入ってきた。
相変わらず色っぽいイケメンで、今日は昨日よりラフな服装で教壇に立つ。

「おはよう諸君、今日から本格的に授業が始まるが、準備は出来てるか?まあしばらくは中等部の復習が続くだろうが気は抜かないように」

先生は教室を見回し、欠席者を確認した。

「今日もカスケードは来てないのか、それから、留学生のテンノウジも来てないな。確かカスケードと同室だったよな」

先生は肩をすくめてため息をつくと、人がいりゃあカスケードも登校するかと思ってたが甘かったな、と呟く。
先生を崇拝しているらしい生徒が何人か立ち上がり、テンノウジを迎えにいくと言ってくれているが、もうHRは終わりの時間だ。
何もできないでいるうちに、ガラガラッと派手な音をたててドアが開く。

「危うく遅刻だったぜ!」

いつにもまして頭をボサボサにした天王寺がそこにいた。

「テンノウジ、大丈夫だったか?悪いな、同室者を間違えたらしくてな、カスケードでも案内ぐらいしてくれるかと思ったんだが」

「大丈夫だ!ちょっと迷ったけど、副会長とか言うやつに会って案内してもらった!」

天王寺の言葉に教室が一瞬どよめく。

あの副会長様に会ったの?
うらやましい!
おれもまだ会ったことないのに!

羨望の声の中には、少し不穏な響きもあった。
なんであんなやつが、というわずかな悪意だ。
前に座るタイガが、困ったように頭を抱える様子を見て少しかわいそうになった。
天王寺は割りと肝が据わってるみたいだから、多少の悪意なんてどうってことないだろうに、タイガはいいやつだし面倒見がいいみたいだからいらない心配までしていそうだ。
先生にあんな口きけるくらいだから、相当なタマだとおれは踏んでるんだけどなあ。

「そうか、まあ、とにかく無事でよかった。席に着け、すぐに一限がはじまる」

天王寺は元気良く頷くと席に座った。
すぐに席の周りのやつから質問攻めにされていたが、それもすべて見越していたかのような表情が少し気になる。
やっぱり、良くわからないやつだ。



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あきゅろす。
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