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ウィザード
新入生の手引き

怒涛のトリップ初日から一夜が明けて、意外にも平凡な朝が訪れた。
目覚ましがなって、ベッドから起き上がるとダンボールが雑多に散らばる部屋が目に入る。

勝手にいすとか箒とかが動いて部屋を片付けてくれてたりは、しないのね。
せっかくファンタジーな世界に来たみたいだし、ちょっと見てみたかった。

「おはよ」

「………おはよ」

リビングに入るとタイガはもう起きていて、コーヒーを飲んでいた。
爽やかなイケメンだしさぞ絵になるかと思ったけど、低血圧みたいで表情がぜんぜん爽やかじゃない。
まさにどんより、曇天。
虚ろな目でコーヒーをすする様子があまりにも普通の人間過ぎて、髪が青いこととか魔法使えることとか忘れそうになる。

「朝は苦手?」

「……うん」

一拍の沈黙があって返事が返ってくる。
目が覚めるまではそっとしといてやるか。
昨日いろいろとお世話になったお返しに、実家から持ってきていたレトルト粥を少し分けてあげた。
ちなみに家は朝はお粥派だ。
タイガはソファにうずくまるように丸くなってお粥を食べていた。
しっかりして見えるけど、割とかわいいところがある。

制服は今日届く予定なので、とりあえず今日までは学ランで登校する。

やっと目が覚めてきたらしいタイガが先にドアを開けて部屋から出ると、ちょうど隣の部屋から幸仁が出てくるところだった。
同室のやつとぎこちないながらも笑いあっている。

「幸仁、おはよう!」

「緑!おはよ」

やっぱりちょっと疲れ気味みたいだけど、もう昨日みたいにビビリまくってはいない。
おれと同じように、ある程度のことは教えてもらったんだろう。
もう片方の隣にいるはずの天王寺はまだ出てきてないみたいだったけど、まあ、同室者が何とかするか、と思ってそのまま置いて登校することにした。
昨日の恩はまた今度返すから!

幸仁の同室者はこれまた目に痛いぐらいの金髪で、瞳も猛獣を思わせる金色だった。
タイガとはもともと友達だったみたいで、二人してふざけながらおれたちを案内してくれた。
人脈に恵まれてほんとよかった!

昨日はいろいろとあわただしくて気づかなかったけど、この学校、相当広い。
タイガが名門だと言っていただけの事はある。
寮を出るときれいに手入れされた中庭を通って、校舎に向かう。
授業が行われるところは、東棟と呼ばれているらしい。
その隣には宮殿みたいな本部の建物があった。
その造詣はおれらがイメージするファンタジーの建物そのもので、ちょっと感動する。

「すげー建物だな」

「だろ?無駄に金かけてるよな、他のとこに使えばいいのによ」

「いや十分寮も豪華だろ!」

若干チャラい金髪が、おれの前に立ちはだかる。
わざとらしいまじめな顔がおかしい。

「いやいやいや、重要なこと忘れてねえかロクちゃん!あの塀の向こうは女子部なんだぜ?あんなとこに金使うくらいなら塀を取っ払って完全な共学にしてほしいだろ」

「まじか!ここ男子校じゃないのか!?」

おれは本気でぎょっとした。

「ちゃんと女子はいるよ。ただ、完全に学校内では分離されてるからよっぽどのことがない限り会えないけどな」

確かに本部の正面には不自然な塀がのびているけど、その壁の向こうは女の園だったのか!
確かにそれはもったいない金の使い方だ。


「われわれには潤いが必要だ」

神妙にうなづくと、チャラ金髪が腹を抱えて笑い出した。

「ロクちゃんっておもしろい顔するな、おれ、カイロス。カイロス・ディールガイ。よろしく」

どうやら彼のおめがねにかなったらしい。
チャライ割にはご丁寧に握手まで求められたので素直にそのてを握り返す。
すると、全力で力を込めてきた。

「いだだっちょ、やめろよ!」

「ハハハ!単純だな〜ロクちゃんは!」

「ふふ」

「幸仁!笑ってないで助けろよ!仲間だろ?」

「僕は昨日やられたから、緑もちゃんとやってもらいなよ」


「んだよそれ!」

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