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ウィザード


「まず、は、あの、魔法って、ほんとにあるのか?」

おれはとりあえずそのことを聞いてみた。
ジア魔法学校だ、魔法の鍛錬だ、などと耳にはしたけどみたところおれのイメージする魔法は見えなかった。
箒で空を飛んでたりもしないし、ものが勝手に動いたりもしなかった。
唯一あったのはこの学校に移動するときに通ったどこでもドアだけど、ちょっとイメージとは違う。
おれの真剣な顔にタイガは苦笑した。

「おれは生まれたときからここにいるから、魔法がない世界のほうが想像つかないな」

「ほんとに、ここって魔法学校なのか?」

「そうだよ。魔法先進国ジアのジア魔法学校といえば、デウス=エクス=マキナ中から人が集まる魔法学校の名門だよ」

「あ、そのデウス何たらって何?」

「あー、そっか、それも知らないのか、この、世界のことをおれたちはそう呼んでるんだ」

「なるほど」

いきなりの質問攻めにもタイガはいやそうな顔ひとつせず答えてくれた。
この調子なら、案外早くこの世界のことを知れるかもしれない。

「それで、ロクはもう属性わかったのか?」

タイガから質問されて、おれは首をかしげる。

「それ、さっきも聞かれたんだよな。なんだ?ゾクセイって」

「んー、使える魔法の種類のことだよ」

「んん?あー、え?」

そう説明されてもそもそも魔法が何なのかよくわかっていないのでよくわからない。
眉をしかめてうなっていると、再びタイガが噴出して笑った。

「ふふっ、いや、ごめん、なんかいちいちおもしろくて」

「のんきなこと言うなよぉ」

「一から説明してやるって!」

タイガはどこからか教科書らしきものを引っ張り出し、おれに見せてくれた。
開かれたページには大きくイラストが書かれていて、魔法の仕組みを解説している。

「ほら、こうやって原子には属性分子って粒がくっついてて、それが集まると、エネルギーが生まれる」

「ふむふむ」

「っぶ、ふむふむって……、で、属性分子はおれたちが持ってる魔力っていう力で動かせる。属性分子を魔力によって操る業を魔法という!わかるか?」

「んーあー、わかったようなわからないような」

「まあ、すぐにはわからないよな。たぶん授業で丁寧に教えてくれると思うし、詳しいことは先生に聞いてよ」

「まあ、魔法がおれが思ってたよりも理屈っぽいことはわかった」

「お前が思ってる魔法がわかんねー。……そうだなぁ」

タイガが腕を組みにやりと笑ってみせる。
その悪戯めいた表情が、なんだか弟分のいとこによく似ていた。

「魔法、見てみたい?」

「え、できるのか?!」

おれは思わず身を乗り出して聞き返した。
タイガは得意げに笑って、ごそごそと制服のポケットから何かを取り出す。
それは青い石のペンダントで、かなり使い込まれたように滑らかな雫型をしていた。

「おれは水属性だからな、水の魔法が使えるんだ。この石を媒体にして、属性分子を集める。それで、魔法の内容を属性文字で指示して、」

タイガの表情が真剣なものに変わりペンダントを握る手が空中に何かを描くように動いた。
その動きが終わると同時にその指先が空のコップを指差すと、底から水が滾々と湧き出しコップをいっぱいに満たした。

「これが魔法だ」

「…………っっすっげぇぇぇええええ!!」

おれは思わず加減を忘れて叫んでいた。
今のは鳥肌が立った。
すごい、何もなかったところから水が出てきた!

よくできたマジックみたいだったけど、コップを持ち上げてみてもなんの仕掛けもなくて感動する。

「おまえすげーな!」

「こんな初級も初級の発生魔法でこんなに驚かれたの初めてだよ」

照れて笑うタイガは、戸惑うように首を掻いた。
飲んでみてもいいか、と聞くとタイガは今にも大笑いしそうな顔でいいよ、と言う。
ちょっとだけ口に含んでみても、普通の水の味がする。
ほんとに水だ。
何にもないところから出てきたとは思えない。

「すげえなあ、魔法って」

「このぐらい、少し練習すればすぐできるようになるよ。この学校に入学できたってことは、ロクにも魔力がちゃんとあるんだろうし」

「まじかよ、はやくやってみてー」

思わずこぼれた本音に、タイガはうれしそうにしていた。
それからもタイガはおれにいろいろなことを教えてくれて、おれもいろいろなことを理解できた。
数時間前までは完全な異世界だった世界が、ちょっとずつ明るくなっていく感覚。

それはとてもわくわくして、胸が痛くなるぐらい興奮した。
おれは疲れも忘れて夜になるまでタイガの話を聞いていた。

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