ウィザード
7
日がすっかり沈み、幸仁お手製の親子丼もあとは卵を流し込むだけとなったとき、ようやくタイガが帰宅した。
やっぱりいつもより疲れた顔をしていたけど、玄関にも漂う美味しそうな匂いに現金に表情が明るくなる。
「お帰り〜」
「ただいま、珍しいな、夕御飯手作り?」
「うん、おれは作ってないけどね」
「えっ?!」
タイガはそこでようやく幸仁の存在に気づいて、あからさまに嬉しそうな顔をする。
「お帰り、おじゃましてます」
「た、ただいま!でもどうしたんだよ、カイロスは?」
「友達の所に泊まりに行くって。寂しかったから、こっちでごはん食べようと思ったんだけど……大丈夫だった?」
「勿論!」
タイガはそこでいい匂いに釣られたようにふらふらキッチンに入っていくと、グツグツ煮えている鍋を覗いて恐る恐る聞いた。
「おれの分は………ある……?」
「ごめんね、いつ帰って来るかわかんなかったから、用意してない」
幸仁はもともと垂れぎみな目尻を更に下げて申し訳なさそうな顔を作った。
「え、まじで……!」
タイガは背後に白い稲光が見えるほど衝撃を受けて立ち竦んだ。
それを見た幸仁は耐えきれなかったようにお玉を握ったまま吹き出した。
「ふ、ふふふ、ごめん、嘘!」
がっくりと下がったタイガの肩が今度は跳ね上がる。
「ちょ、そういう分かりにくい嘘やめろよな!」
タイガは安心したような怒っているような子供っぽい表情でやいやい言った。
いつの間にそんな仲良くなってたんだ!
とおれは衝撃を受けつつも何でもない顔で配膳を整える。
昼休みにアキトからあんな話を聞いたせいで、なんとなく恥ずかしくなってくる。
おれ、ドラマとかのキスシーンって恥ずかしくて見れないタイプなんだよな。
いやべつに!幸仁とタイガがキスしてる訳じゃないけどさ!
いつもは買ってきた弁当やありあわせのもので作った男の料理しか並ばない食卓に、ホカホカと湯気をたてる親子丼とお吸い物がならぶ。
ちゃんと薬味なんかも用意されてるあたりが繊細な幸仁らしい。
「いっただっきます!」
おれは全員が席につくなり手を合わせ、さっそく丼を抱えてかきこむ。
う、うまい!
その欠食児童ぶりに幸仁が苦笑していたけど、かまわん!
美味しいものをがっつかずに居られるか!
タイガは行儀よく手を合わせて箸をとった。
そして一口親子丼を口に運ぶと目を丸くしてガツガツと丼をかきこみ始める。
食卓は高校生がただただ飯を食らうだけの沈黙に包まれ、幸仁も満足げに自分の分を食べた。
ホントにうまいもの食ったときは無言になるよなあ。
言葉にできないってやつ。
ものの数分でタイガは親子丼を平らげた。
すると横からスッと手がのびてきて、幸仁が尋ねる。
「おかわり、いる?」
「いる!」
「おれも!」
それに乗っかっておれも要求すると幸仁は嬉しそうに丼を持ってキッチンに戻った。
幸仁はほんといい奥さんだよなあ。
それはタイガも感じているらしくキラキラした目で幸仁を見つめていた。
おお、ときめいてるときめいてる。
「はい、お待たせ」
最初と変わらないくらいに盛られた丼に俺らは再び夢中になる。
そうしてようやく食欲を満たした俺らはがつがつした食事を終えた。
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