ウィザード
3
「ありがとう、じゃ次は、えー、忍野幸仁(オシノユキヒト)」
「っはぃ」
次に呼ばれたおれの友人、幸仁は見てるこっちが不安になるくらいぷるぷる震えていた。
「忍野、幸仁、です」
そこで幸仁は言葉に詰まって涙ぐみ始めた。
すると教室から、がんばれーと声が上がる。
その声に後押しされたのか、幸仁は、よろしくお願いしますっと言い切って深々と頭を下げた。
暖かい拍手が起こり、幸仁はほっとしたように席に座る。
「ん、じゃ、さいごは、」
「天王寺礼王(テンノウジレオ)だ!みんなよろしくな!」
教師の言葉を待ちきれなかったようにモップ頭の彼が立ち上がった。
思ったよりも大きな声とその堂々とした態度に、教室がどよめく。
人は見かけによらないものだ。
「元気で結構。じゃ、座ってもらえるか?」
天王寺は、いいぜ!、となぜかタメ口で返事をするとすとんと席に座った。
ホスト教師は目を丸くしながらもチョークを手に取る。
「今の三人は今年ジアにやってきたばかりの留学生だ。もちろんこの世界のことは何も知らないし、いろいろなれないだろうから、みんなで支えてやってくれ。で、お前らの担任になったおれは、」
教師は黒板にすらすらと名前を書く。
文字はなぜだか日本語のままで、カタカナの名前を書いていく。
妙な光景だけど、いまさら不思議も何もないかと強引に流した。
「アルビレオ・ユルングだ。一年間よろしくな」
気障な笑顔がいやみなくらいよく似合うアルビレオ先生は、アル先生でいいぞ、と再び教室を歓声でいっぱいにする。
その後はよくある諸注意とか連絡があって(ほぼ理解できなかったけど)お開きとなった。
さて、これからどうしたものか、と途方にくれるとわらわらと机の周りに人が集まってきた。
「よお、おまえ魔法のない世界から来たんだってな!どんなとこ?」
「まだそんなの説明のしようがないだろ!悪いな、気にすんなよ」
「寮の行き方わかるか?あんないしてやろうか?」
「シイバ君の属性って何?まだわからないの?」
「オシノ君大丈夫?泣きそうな顔してるよ?」
急な質問攻めにあたふたしていると、人だかりにぐいっと天王寺君が割り込んできた。
「わるい!みんな!おれたちいろいろありすぎて今日疲れちゃってさ、少し休みたいんだ。寮まで連れて行ってくれないか?」
なんていいやつなんだモップ!
見直したぜ!
その一声のおかげで、おれたちは教室を抜け出すことに成功した。
何人かが案内についてきてくれたおかげで無事に自分の部屋にたどり着くこともできた。
気を利かせてくれたのか、おれと幸仁の部屋は隣同士で、同じクラスのやつが同室なようだ。
これでやっと、この世界が何なのか聞けるチャンスがくる!
おれはとりあえず家から持ってきた荷物を部屋に置いた。
おれの部屋は2LDKで、片方の寝室にはダンボールが山積みにされていた。
ちょっとだけ中をのぞくと、そこにはおれの実家からの荷物が入っていた。
仕事が早い。
おれの引越しはもう完了しているようだ。
ここがおれの部屋か、と新品のベッドに座ってマッタリする。
なんかこうしてると、普通に全寮制の高校に来たみたいだ。
男子校みたいだけど、悪くないかもしれない。
なんとかなるか、と楽観に浸っていると、部屋をノックされた。
「はい」
「どおも!留学生さんだよな?」
ドアからひょいと顔を出した少年は、深い藍色の髪と水色の目を持っていた。
顔立ちはこれまた端整に整っていて、色彩もあいまってとてもさわやかな印象だ。
「あ、うん。あなたは?」
「おれ、同室のタイガ。ちょっと話さねえ?疲れてるなら、休んでていいけど」
「同室の人か!おれもいろいろ聞きたいことあるんだ」
よかった、こんなにすぐに同室の人にも会えて。
しかも結構いいやつっぽい。
おれは促されるままリビングのソファに座ると、タイガくんと向き合った。
「改めて、おれは椎葉緑。よろしく」
「ロクな、オッケー。おれはタイガ・リュアクス。クラスも一緒だし、わからないことがあったら頼ってくれよ」
「それは本当にありがたい!おれ、いろいろ混乱してて、聞きたいことがいっぱいあるんだ」
おれが心からそう訴えると、タイガは快活に笑った。
「はは、ロク、おもしれーな、なんか落ち着いた顔してるとおもったけど、すげー表情!」
こらえきれないようにくすくす笑われたが、その無邪気な様子に不思議と腹は立たない。
こちらまでつられて笑ってしまった。
「初対面でそれはひでーだろ!」
「いやだって、なんかすごい必死だし」
「そりゃ必死にもなるわ!こっちは何がなんだかわかんねーんだよ」
「うんうん、わかった。なんでもきいてよ」
まだ笑みを残しつつ、タイガは聞く体制をとってくれる。
すごく、いいやつだ。
顔もいいし、さぞもてるんだろう。
まあそれはおいておこう。
おれはこの世界のことを知りたい。
一年間はお世話になるし、それに、新しい世界を前にしておれはすごくどきどきしていた。
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