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ウィザード


「今日の昼休み、天王寺君と、タイガもいっしょに食堂に行ったんだ」

幸仁は最近、毎日のように天王寺に連れまわされている。
おれも対抗しようとしたけど、幸仁本人がしなくていいというので最近はそっとしている。
幸仁は気も長いし受動的なので、そこまで苦痛にも感じていないのかもしれない。

「それで、いつもみたいに生徒会の人たちもいてさ」

そう、天王寺を目当てにここ数日は毎日生徒会の面々が食堂に来ているらしい。
今のところ幸仁やタイガに絡むことはなく空気扱いされているとか。
天王寺も生徒会の人間と遭遇すれば幸仁もタイガもほったらかしなので、幸仁とタイガは実質二人で昼休みをすごしているという話だ。
時折急に話を振られるけど、返事を聞かないうちに生徒会との会話に戻ってしまうので気が楽だよ、と昨日幸仁は語っていた。

「僕たちもいつもどおり気にしないでお弁当食べてたんだけど、天王寺君が急にクレープ食べたい!って言い出して、」

そういえばクレープがどうとか、一緒にいこうとかなんとか言ってたな。

「まあ、いつもみたいにすぐに生徒会といっしょに行く話になるだろうから相槌で誤魔化してた。そしたら、急に親衛隊の人たちが話しかけてきて、」

「そういえば、会長の親衛隊のたいちょーさんがいたよね、あの、オレンジっぽい髪のすっごいかわいー子」

カイロスが顎に手を当ててつぶやく。
その人、おれも見たかも知れない。
目がおっきくて華奢な女の子みたいな人だ。
幸仁になんか物騒な啖呵きってたけど。

「たしか、アエラ・エリアーデ、だっけ。二年の」

カイロスの知識は幅広い。

「そう、その人が、なぜこんな生徒と仲良くなさっているんですか?って、会長に言ったんだ」

こんな生徒とは、言わずもがな天王寺だろう。
ここまでは想像できる展開だ。
でも、最終的になぜ幸仁がアエラ先輩とやらに啖呵切られなきゃいけないのかわからない。

「会長はそのアエラさんにレオは大切な人だって言い返して、ちょっとした喧嘩になった。そこまではよかったんだよ。完全に生徒会の人たちと天王寺君と親衛隊の人たちの会話だった。でも、天王寺君は、」

幸仁は珍しく眉間にしわを寄せて嫌悪感をあらわにした。

「天王寺君は人の話を聞かないから、喧嘩の途中にまたクレープの話を持ち出してきてね。親衛隊の人はますますヒートアップするし生徒会の人たちもどこに行こうかとか言い出して騒ぎが大きくなっちゃったんだ」

「それであんなに野次馬が集まったのか」

おれは頷く。
天王寺と親衛隊の衝突は、この学校の生徒にとっては格好の娯楽なんだろう。

「その話の流れで、急に僕にも話が回ってきて」

「なんて?」

「ユキも一緒にクレープ食いにいこーぜって」

なんとなく話が見えてきた。

「それで、ぼく、とっさに声が出なかったんだ。そしたら、勝手に行く方向で話を進められて、なんども行かないっていったんだけど、天王寺君、話聞いてくれないし」

幸仁は唇をかみ締めてうつむいた。

「それが、親衛隊の人は気に食わなかったみたい。天王寺君だけじゃなくて、僕みたいな普通の生徒が生徒会の人と一緒にいること」

幸仁の声は泣き出しそうにか細くなっていく。

「親衛隊でもないのに、生徒会の人に近づいた天王寺君と、僕を、許さないって、言われた」

そこまでを話し終わった幸仁は制服の袖で目元をごしごしこすった。
そして、おれの顔を見て、笑う。
泣きそうな笑顔に、こっちまで切なくなってくる。

「あの時は、ありがとう。ロクが連れ出してくれなかったら、ぼく、どうしたらいいかわからなかった。アキト君にもお礼、言わなきゃね」

幸仁の表情は不安にこわばっている。
無理もない。
幸仁は宣戦布告されたんだ。
明日から、親衛隊による嫌がらせが幸仁にまで及ぶかもしれない。
かもしれない、というか、絶対ある。

おれは言うべき言葉を見つけられなくて幸仁をただ、抱きしめた。

なんで、幸仁がこんな目にあわなきゃいけないんだ。
天王寺はどこまで人を巻き込めば気がすむんだ。

自覚はないかもしれないけど、無知は罪だ。
本当にそう思う。

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あきゅろす。
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