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ウィザード

そんな甘酸っぱい話の後、アキトがふと真顔になっておれに問う。

「そういうの、無理なやつか?」

その顔になんだか鬼気迫るものを感じておれは思わず口ごもる。

「え、いや」

「平気か?」

重ねて聞いてくるアキトはいつになく真剣でなんだかこっちが照れてしまう。

「別に、そういうのって個人の自由だから、なにも思わないよ。おれはノーマルだけど、感情なんて制御できるものでもないから、なんとなくわかる」

しゃべってる間中頭の中で有名な、こ〜い〜しちゃったんだたぶん♪というフレーズが流れていて気まずかった。
実際、アキトに独占欲めいたものを感じたことのあるおれとしては居心地が悪いことこの上ない。

「そうか」

そうつぶやくアキトがそこはかとなくうれしそうで少しからかいたくなる。

「なになに?おれをそんな特別な目でみてくれちゃってんの?アキトくん?」

わざと顔を近づけて至近距離でニヤニヤ笑ってやる。
アキトは一瞬うろたえたような顔をしたけどすぐに意地悪そうに口角を吊り上げた。

あれ、嫌な予感。

「……本当にいいのかよ?そういう目で見ても?」

とてつもなくアダルティな仕草でおれの顎に手を添える。
おれはいつの間にか逃げ腰になっていたけど、アキトは止まらない。

「いや、ちょ、冗談だって!」

「冗談ってことにしとけばいいだろ、お前は。ただ、おれのほうはわからないけどな?」

頭の後ろまでをもう片方の手で拘束されて逃げ場がない。

「え、やめ、ほんとごめんっ」

「なにあやまってんだよ」

近づいてくる色っぽく薄く開いた唇におれの意識がとらわれてどうにも動けなくなったとき、ドアの開く音がした。

「アキト隊長お邪魔しまっす!ロクちゅわ〜んいるぅ?」

このふざけたしゃべり方、もしかして!

「あ。」

「……っチ」

「……かい、ろす?」

カイロスはおれたちを上から下まで嘗め回すように見ると、嫌な感じにニヤニヤ笑いながらもう一度ドアを閉めた。

「ほんとにお邪魔みたいなんで失礼しまぁす」

「え、ちがっちょ、カイロス!!」

おれが慌てて止めるもすでにとき遅し。
カイロスがばたばたと階段を駆け下りていく音がした。
きっと数多くいる友人にこの出来事を言いふらそうとでもいうのだろう。
いじられるのには慣れてるけど、恥ずかしいからやめてほしい。
まあ、こうしてカイロスが遠慮なくアキトのことまでからかうから、アキトとクラスメイトとの溝はわずかながら埋まりつつある。
それはいいことだろうけど。

おれは恨めしげにアキトを見た。

「…………アキトのばーか」

「いいじゃねえか。うわさが立ったらそのときはちゃんと責任とってやるよ」

アキトは涼しい顔でそんなことを言う。
その責任取るの意味はなんですか。

おれが問いただそうとしても、アキトは立ち上がってすたすたと屋上から出て行こうとしていて聞けない。

「おい、ちょっと、どういう意味だよそれ!」

背中に叩きつけるように聞いても、ちょっと振り返られて妖しく微笑まれると何もいえない。

おれは結局、アキトに良いように踊らされてるみたいだ。


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