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ウィザード
新米魔法少年と波乱
テスト週間も無事に終わり再び平凡な学校生活が戻っていた。

なんだかんだでこの世界に来て十日以上経ったけど、思っていたほど元の世界が恋しくはない。
異世界と言っても文化はほとんど変わらないし、何より友人に恵まれたからだとおれは思ってる。
幸仁もいるし、タイガも相変わらずイケメンなくせに嫌味がない。
アキトとはすっかり打ち解けてよく昼食を一緒にとるようになった。
授業ではたいてい突っ伏して寝ているけど、その割には成績はよくてわからないところを教えてくれたりする。
面倒見のいい兄貴みたいなアキトと一緒にいると、なんだか落ち着く。
彫刻みたいに整った綺麗な顔も、いろいろな表情を見せてくれるようになると驚くほど人間っぽかった。
きっと、最初からおれたちの相性はよかったんじゃないかな?
そうじゃなかったら二週間もしないうちにこんなに心を許せないと思う。

天王寺は相変わらず自己中心的ではあるけど、まあ、事件という事件をもちこんだりはしない。
でもやっぱり生徒会の親衛隊による嫌がらせが始まっているみたいだった。
でもそのたびにタイガがフォローに忙しく駆け回るのは少しかわいそうだった。
本人は嫌がらせを受けても何でもなさそうな顔をしていたから、ある程度のことは放置してても大丈夫じゃないかと思うんだけど。
タイガは優しいからそれができないみたいだ。

それに幸仁も。

不安な要素といえばそれぐらいかもしれない。
幸仁も相変わらず天王寺に振り回されることが多くて、ここ数日は天王寺の友人と言えば幸仁、とクラスメイトも認識しているみたいだった。
おれもなるべく幸仁と一緒にいるようにはしているけど、やっぱり他のクラスメイトがいるのに四六時中一緒に居れないし、属性別に分かれて受ける授業なんかでは別々にならざるを得ない。

そうそう、最近は午後の魔法演習の授業や属性別の授業も皆と同じ教室で受けるようになった。
さすがについていけないときもあるけど、皆そこは配慮してくれてるから問題ない。
属性別の授業なんかに行くと、教室にいるみんなの頭が黄緑色だったりしてすごく面白い。
なんとなく野菜みたいだなっておれはおもってる。

まあとにかく、そうしておれたち留学生もいつも一緒にいるわけではないから、おれやタイガがいないところで幸仁が何かされないか心配だ。
まだ暫くは大丈夫だろうけど、これ以上天王寺が親衛隊の反感を煽れば危なくなってくる。

「なに難しい顔してんだよ」

「へぁ?」

急に現実世界に引き戻されておれは思わず気の抜けた返事をした。
ここは屋上で、いつものように昼食をとっている。
横に座っていたアキトがこらえ切れなかったようにぶっと吹き出して笑った。

「くく、なんつー間抜け面だよ」

「失礼な!すごく慈悲深いこと考えてたのに」

おれが肩をすくめると、笑いながらも少し真剣に顔を覗き込まれた。

「ユキヒトのことか?」

割と人のことを観察しているアキトは一発でおれの懊悩の原因を言い当てた。
おれは感心しながらも、軽く頷く。

「うん。今日も食堂に連れてかれたけど、大丈夫かな」

「今日はタイガも一緒にいるんだろ、大丈夫だろ」

今日も今日とて幸仁は食堂に連行され、生徒会と天王寺のメンバーに加えられているはずだ。
タイガも一緒だからあからさまなことはされないだろうけど、一人になったときが怖い。

「ほんと、タイガには苦労かけてるなあ。幸仁のことも、最近はずっと気にかけてるみたいだし」

おれは本当は甘えたいはずなのに頼られてばかりいる友人を思い浮かべる。

「別に、苦労なんて思ってねえだろ。リュアクス自身がユキヒトのことを守りてえって思ってるんだ」

その確信めいた言い方に、おれは思わず聞き返した。

「どうしてそんなことがわかんの?」

アキトは少し困ったように眉間にしわを寄せて、目線をそらした。
そして言いにくそうに、ぼそぼそとつぶやく。

「リュアクスはユキヒトのことを相当気に入ってる。お前らは友達だから気付いてねえかもしれねえけど。おれみたいな第三者からしてみれば、リュアクスとユキヒトのやり取りはまるで付き合いたてのカップルみたいなんだよ」

そういわれてみるとおれにも思い当たることはあった。
いままで何度となく聞かされてきたタイガと幸仁のかゆい会話。
今までは二人ともがいい人だからそうなってるんだと思ってたけど、タイガが幸仁のことを特別大切に思っていたからだと考え直すととてもしっくり来る。
そして幸仁もそれがうれしいからあんなむずがゆい感じになるのか。

なるほど。
すごく納得してしまった。

でもそれって、

「タイガは、幸仁のこと好き、なのかな」

「……まあ、今のところは友達としてだろうが、な」

アキトはあいまいな感じに笑った。


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